あまく翻弄される
もしかして待ち伏せされているかもなんて思っては、そんなわけないと自嘲する。

これは自然消滅かもなんて思って無理に笑おうとしても歪な笑みになるだけで全く笑えもしない。
ぐちゃぐちゃだった。何もかもが分からなくなって今は自分の気持ちさえぐちゃぐちゃ。


生徒が大方帰った時間にこっそり昇降口を出る。


そんな怪しい動きをしている私に不自然に校門の影に隠れるように立っている人影に気付き、くるりと背を向けて裏門の方へと走る。


「鳴さんっ」


その後ろを聞き慣れた低音が、聞き慣れない焦ったような声で私の名前を呼ぶ。

そんな声出せるの?聞いたこと無かった。
知らない一面に触れる度、心のどこかで喜ぶ声がした。
そんな場合じゃないのに。


校舎がゆらゆらとぼやけて、気付いたら自分でも分からないうちに涙がこみ上げてきていた。
< 66 / 75 >

この作品をシェア

pagetop