あまく翻弄される
「……鳴さんまじでマゾ」
「………は?」
罵るとか詰るとかもっと私が酷いことを言われると思ってたのに、想定外の言葉に目を白黒させる。
「鈍感だし自分を傷付けすぎ」
「……」
状況が追いつかない私とは反対に伊織くんはけろりとそう言った。声は変わらず優しい。
「その後、鳴さんは俺の事を見事に避けた」
「……うん」
「どうして?」
どうしてだろう。
恐くて臭いものに蓋をするように隠した感情を、伊織くんと一緒にゆっくりと紐解く。
伊織くんと一緒なら恐くないと思えた。
あの時、どうしようもないくらいの不安と嫉妬の醜い感情が襲ってきて恐かった。
いつ伊織くんに振られるんだろうと思うと恐くて聞きたくなかった。
私じゃなくてあの女の人を選ぶ伊織くんが憎くみえてしまった。
そんな醜い感情を悟られたくなくて、私は逃げた。