あまく翻弄される
伊織くんを好きなんかじゃないって自分に言い聞かせて。

心にストンとおちてきた。

絞り出した声は震えていてあまりに聞くにたえなかった。


「…………ごめん、伊織くん、」

「俺も謝らせて。鳴さんが見たあの女の人は過去に遊んだことのある女だけど正直覚えてない」


そう言って自嘲する伊織くんの手をただぎゅっと握る。


「……不意打ちにキスされた。不安にさせてごめん」


最初から聞いたら良かったと拍子抜けするくらい伊織くんはあっさりと教えてくれた。

私の一人相撲に後悔の念が今更押し寄せる。

私、自分のことばっかりで伊織くんの気持ちを無視してた。伊織くんだって嫌な思いをしたはずなのに。

私は何度この人に救われるんだろう。

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