あまく翻弄される

9

「……私、いっぱい伊織くんを傷付けてごめんね」

「理由も言わないで避けられたのは傷付いた」

「……ごめんなさい」

「けど、さっきの言葉も全部俺には鳴さんからの告白に聞こえたから許す」

「なにそれ」


思わず笑うと釣られて伊織くんも笑う。
瞳を溶かして笑うこの表情は私にだけ向けられていた。


ずいぶん遠回りしたけど、はっきりわかった。
私は伊織くんが好き。


「伊織くん」

「うん?」

「大好きだよ」



その言葉に伊織くんは心底幸せそうに笑う。
もうきっとこの気持ちだけは迷わない。

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