あまく翻弄される
顔を傾けて頬に手を添えたままゆっくりと近づいてくる。伏せ目がちなその表情を見ていたくて瞼を閉じないでいると、

「目、とじて」

「やだ」


吐息が唇にかかる距離でくすくすと笑いあう。


「鳴さん我儘」

「年上の威厳を脱ぎ捨てた私は嫌い?」

「威厳なんてなかったけど、どんな鳴さんでも好きだよ」

「もっと言って」

「…鳴さん好き」

「もっと」

「俺の傍にいて。離れないで」

「もっと」

「これ以上はキスの後」


そう言ってやっと触れ合った唇は会えない時間を埋めるように角度を変えて深く重なる。
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