灰を被らないシンデレラ
遠くで話し声がする。
言い争っているようにも聞こえる。
ゆっくりと意識が浮上していき目を開けば、見慣れない白い天井と点滴が見えた。
鼻をつく消毒液の匂いが此処が病院である事を突きつけてくる。
「まったく情け無い」
何故病院にいるんだろうと思ったところで、耳に入ってきたのは大嫌いな声だった。
「これくらいの事で倒れた挙句病院の世話になるなど、経営者の妻としての自覚が足りない証拠だ」
「臣永さん、違います。憂がこうなったのは俺のせいで…」
「いいんだ一宮くん、君はまだ若い、それに会社もこれからだ。そんな時に妻如きに振り回されていたら駄目なんだよ」
既にはっきりとした意識の中、父親の血も涙もない言葉が容赦なく心を抉ってくる。
「とにかく、憂はこのまま臣永へ連れて帰る。再教育を施した後にまた君へ渡そう」