灰を被らないシンデレラ
「ごめんなさい…」
そう言いながら身体を起こす憂を支えようと柊が手を伸ばす。
けれどその手の感覚すらも今は拾うことができなかった。
「ごめんなさい、ちゃんとやります。ごめんなさい、だから、許して、くだ、さ」
嗚咽をしながらそれでも謝り続ける憂に柊が悲痛な表情を見せる。
譫言のように何度も謝罪を口にする憂は、自分を人とも思わぬ扱いをする父に向かって縋り付くように懇願した。
「私、ちゃんとできます。やりますから、だからーー」
あの家には、帰りたくない。
確実に言葉にしたはずなのに、何故か音が出なかった。
自分の中でプツンと何かが切れる音がして、絶望感に苛まれながら震える手を喉元に当てる。
何度口から声を出そうとしても、息を出す音だけしか耳に届かない。
それを繰り返すうちにその異常さに気付いたのだろう、柊が真っ青になりながら口を開いた。
「憂、お前…声が…」
ーーー声が、出なくなった。