灰を被らないシンデレラ
独白-後悔-
憂から声が消えた。
それを知った時感じたのはどうしようもない後悔だった。
これまで憂は一切涙は見せなかった。
初めて見た時も、半ば無理矢理行為に及んだ時も、ストーカーに襲われた時でさえ彼女は泣きはしなかった。
そんな憂の瞳が涙で溢れかえっているのを見た瞬間、心臓を握りつぶされた感覚に陥った。
あれほど強い彼女が小さな子供の様に泣きじゃくりながら謝り続ける姿を目にして、憂がこれまでこの父親にどう扱われてきたかは容易に想像がついた。
憂に向ける冷たい視線も容赦のない言葉も、自分は何一つ知らなかった。
沙里奈が現れたと聞いた時でさえ、憂なら大丈夫だと何処かで安心していた。
信頼なんて綺麗な言葉で飾りたててはみたが、彼女の強さに甘えていたに過ぎなかった。
声が出ないと知った時の憂の表情は絶望に満ちていたのに、検査から戻ってきた彼女からは一切の表情が抜け落ちていた。
まるで人形でも見ているかのような、完璧なまでの無表情。
目はこちらを向いているはずなのに、そこに光はなく視線が合わない。
医者から精神的なものだと言われずとも分かっていた。
憂の心が戻るまで声は出ないだろう。
いや、そもそも心なんてのは治るものなのか。
もう二度とあの笑顔を、自分を好きだと言ってくれたあの笑顔を見れないのかと思うと、悔しさと後悔で押し潰されそうになった。