灰を被らないシンデレラ

笑顔




病院での一件があってから、柊は憂の父親に対して警戒心を抱いていた。

とても上手く隠せているが一緒に過ごす時間が長い憂には完璧に擬態した姿の時でも、その奥に含まれる怒りの感情が見て取れた。

故に臣永の家に赴く際には、父が居ようが居なかろうが必ず柊が迎えに来るようになった。


今日は運良く父は不在で、憂は黎と手を繋いで柊の待つ玄関外まで歩いて家を出る。

ここでいつもならば黎はバイバイと手を振るだけなのだが、今日は何を思ったのか柊にちょこちょこと寄って行って服の裾を引っ張っていた。


「柊さん」
「どうしました?黎くん」


膝を折って黎の視線に合わせて微笑みかけると、黎は至極真剣な顔で言う。


「おれ、ねーちゃんの声のビョーキ早く治ってほしいんだ」
「そうですね。俺もそう思います」
「柊さんなら治せるんだ。だからねーちゃんにキスして治してあげてくれ!」
「?!」
「は?」





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