灰を被らないシンデレラ
郊外に建てた3階建ての一軒家。
朝目が覚めた憂は寝室から出て階段を降り、1階の広いリビングに入るとリモコンを操作してカーテンを開けた。
春の日差しは心地よく、常に自動で適温に管理される部屋を柔らかく照らす。
ぐっと一度背を伸ばし、朝一で行っているスキンケアのルーティンを終わらせてキッチンに立ち、エプロンを着けながら夫の為の献立を考える。
この6年でしっかり舌の肥えた夫を満足させるのも妻の仕事だ。
とはいえ、平日は共働きなので本当に気合を入れて作れるのは休日だけ。
今日は土曜日であり、憂は休みだが夫は少し会社に顔を出すと言っていた。
朝はそれほど凝ったものは作れないが、今夜は久しぶりに彼の好物を並べてみてもいいかもしれない。
「憂、はよ」
そろそろ朝食が出来上がりそうというところでまだ少し眠たげな顔をした夫が顔を出す。
36歳を迎える彼だが、色気は日々増すばかりであいも変わらず美しい。
そして今日も今日とて妻への愛が重い。