灰を被らないシンデレラ
披露宴はあっという間に終了し、新郎新婦からのお見送りも終えて引き出物を片手に式場を後にしようとすると突然「すみません」と背後から声がかけられた。
「新婦のご友人ですか?」
「そうですけど」
声をかけてきたのは男。
若い見た目から察するにおそらく新郎の友人というところだろう。
「あの、会場でお見かけした時からとてもお綺麗だなと思って…お名前を教えていただけませんか」
彼の言いたい事は分かった。
なるほど自分に好意を抱いてくれたのだろう。
人が良さそうな雰囲気だし、香里の旦那の友人とあらば雑な対応は出来ない。
「一宮憂です」
「一宮さん…あの、この後って空いてますか?」
良ければお茶でもしながら少しお話を、そう言ったところで憂は首を横に振り、残念そうな顔を作りながら左手を差し出した。
「…ごめんなさい。私夫が居るので2人きりはちょっと」
その指にはめられたダイヤの大きさに男の表情が固まった。
そのまま憂は軽く会釈をして会場を後にしようとしたが、出入り口の扉の前に立つその姿を見てサーッと血の気が引いた。