灰を被らないシンデレラ




「…おい」


それほど間をおかずに唇が離れ、息を忘れていた憂は荒い吐息を漏らす。


「息止めてんじゃねえよ、素人か」


クイと顎を持ち上げられ呆れた目を向けられる。

ようやく酸素が脳に行き渡り頭が冴えてきた憂は、目の前の男をキッと強く睨んだ。


「こんなの強姦だ。マナー違反よ!」
「はあ!?テメー婚約者様に向かって強姦とは良い度胸じゃねえか!」
「こっ…婚約者!?」


とんでもないカミングアウトに目を剥いた。


「やっぱりちゃんと資料読んでなかったんだな」
「う…」


内容など確認する前に散々振り回し破り捨て踏みつけたので相手の名前はおろか顔すら覚えていない。
まさか本当に、この口汚い男が自分の婚約者なのだろうか。

最初に見たあの美しい顔は何処へやら。
いや今も綺麗なのは変わりはないのだが、言葉遣いの悪さから裏稼業の人間としか思えない。


「私…売られちゃうのかな…?」





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