灰を被らないシンデレラ
「よぉ」
悪魔のような笑みを携えた夫が自分を真っ直ぐ凝視していた。
そのまま回れ右して去りたいところだが、そんな事をすれば後が悲惨なので我慢した。
「ど、どど、どうしてここに…」
「んー?妻の親友に結婚のお祝いを渡しにきただけだけど?」
そう言って見せてきたのは御祝儀袋。
憂は唯一、香里の事を友人として柊に紹介していた。
20歳の時の夫婦喧嘩の際に憂が約束を破って外泊した先が香里の家だったので、それに嫉妬した柊が謝罪も兼ねて紹介を強要してきてそれ以来の仲だ。
ついでに言えば今や香里だけは柊と憂の自宅に招く事も許されるほどの関係性を築いているので、彼が個人的にお祝いを渡す事になんら疑問は無い。
が、それはこの背筋が凍るような微笑みが無ければの話だ。