灰を被らないシンデレラ



「それなら私に預けてくれれば…」
「多分こうなるだろうなと思ってサプライズで来たんだよ」


他所向けの擬態した姿で紡がれる言葉のなんたる恐ろしい事か。

硬直する憂を他所に柊は近くのスタッフに香里へ手渡すよう祝儀袋を預け、憂の肩にそっと腕を回した。


「い、一宮柊…」


柊の名前を呼んだのは柊が微笑みかけた女性スタッフか、はたまた憂へ恋心を実らせた新郎の友人か。

もはや男女の声が聞き分けられないほどに憂は頭の中が真っ白になっていた。


柊は2人に優しい笑顔で微笑みかけると、憂を連れて会場を後にした。

会場前に停められていた車に乗せられ、柊も運転席に乗り込んだところで通常より数トーンも落とした声色で一言だけ告げた。


「お前、帰ったら覚えてろよ」


ここで車から飛び出して逃げ出さなかった自分を褒めて欲しい。






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