灰を被らないシンデレラ



その後、体の痛みを訴えた憂の希望は受け入れられ、寝室へと移された。

既に衣服はほとんどその意味を成していなかったが、シーツの海に落とされてからはその全てが取り除かれた。


「なあ、憂」


情欲の中に優しさを含んだ声色で名前を呼ばれ、ふわふわとした心地で憂は返事をする。


「なに?」
「そろそろガキ作るか」
「は!?」


夢に浮かされていた憂の意識が戻り目を剥くが、柊は至極真剣な顔だった。


「別に驚くことねえだろ。俺らが結婚してもう7年目だぞ」
「そう、だけど…」
「卒業もしたし結婚式も新婚旅行もとっくに終えた。仕事も始めて3年経つし、うちは当然福利厚生はしっかり整えてある。問題は何もねえ」


確かに柊の言う通り、いつ子どもが産まれたって育てられる環境は十分に整っている。

それに実際、実家からはいい加減子どもはまだかと連絡が来ていた。
相変わらず父とは折り合いが悪いのでガン無視を決め込んでいたけれど。





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