灰を被らないシンデレラ
「…嫌か?」
柊の優しい手が憂の頬を撫でる。
憂は首を左右に振った。
「嫌じゃない。…不安なだけ」
憂は幸せな家庭を知らない。
優しい両親を知らない。
そんな自分がちゃんと母親になれるのか不安だった。
いつまでも目を背けられる問題ではないのは分かっていたけれど、いざ目の前に突きつけられると身が竦んでしまう。
「それに…母親になったら、女じゃなくなるかもしれないよ」
小さな黎を面倒見てきたから分かる。
子育ては身を削る行為だ。
体型が変わるかもしれない。
美容に今ほど時間を費やせず美しさが劣るかもしれない。
余裕を失い、心無い言葉を投げかけてしまうかもしれない。
それでも、柊は変わらず自分を愛してくれるだろうか。