灰を被らないシンデレラ
「あの一宮柊が、婚約者…」
だからクソの父親はあのような言い方をしたのか。
この女を取っ替え引っ替えする節操のない男をせいぜい誘惑するなり何なりで手中に収めろと。
役に立てとはそういう意味だったのだ。
やらかした。
まさかよりにもよって自分の婚約者を誘惑してしまうなんてせっかく企てた計画が全てパアだ。
どうにかしてこの男から逃げなければ。
それからもう一度仕切り直しだ。
「あの…分不相応に誘惑してしまってごめんなさい。あと強姦とも…訂正します。このまま大人しく帰るので、腕を離して頂けませんか?」
それまでの態度をコロリと変え、憂は目元をうるうるとさせながら上目遣いで見つめる。
男ならこうすれば大抵の事は許してくれる。
どうにも庇護欲を掻き立てる姿だからだそうだ。
「はあ?嫌だが」
けれどそれもまたも失敗に終わった。
どうやらこの男の中ではその大抵に含まれなかったらしい。