灰を被らないシンデレラ
「テメエ…人をおちょくるのも大概にしろよ」
「へぇ、その拳でどうするの?私を殴る?ここで私が大声上げたらすぐに警備員が飛んできて警察行きだけど…それでもやる?」
現に今チラチラと周囲の視線が自分達に集まっている。
側から見れば黒髪清楚な少女にヤンキーが絡んでいるという構図にしか見えないので、圧倒的に不利なのは耕介の方だろう。
案の定、顔を歪めて舌打ちをしながら背を向けて去っていった。
店の前でそんな事をしていたものだから目立ってしまっていたようで、憂は控え室に入るなり市塚に呼び出された。
「臣永さん、さっきの男は…」
「お騒がせしてすみません。昔の知人なんです」
「…社長には…」
あんな素行の悪そうな男が知人だと言われ思う事はあっただろうが、さすが柊が優秀だと認めるだけあってそれ以上の詮索はしてこなかった。
「今夜きちんと伝えます。流石に集団でこられたりしたら太刀打ちできないんで」
「…分かった。こちらの方でも出禁かけておくよ」
「申し訳ありません。ありがとうございます」
その後心配そうに駆け寄ってきたバイト仲間に以前自分の事を聞いてきたのがやはり耕介だったと聞き、憂の頭は痛くなるばかりだった。