灰を被らないシンデレラ
人の嫁に下心向けてんじゃねえわ、と何処に怒りを向けているんだとは思ったが、柊の迷惑にはなっていないようで安心した。
「お前、しばらく1人で行動するなよ。バイト帰りはタクシー使え。俺もできるだけ送迎はする」
「分かった。…ごめんね」
余計な仕事を増やしてしまったことが心苦しく落ち込んで謝れば、ソファの背もたれに載せられていた腕に抱き寄せられ押し倒された。
「別に迷惑なんて思ってねえよ。ただ、お前はもっと俺の嫁って自覚持ちやがれ」
「どういうこと?」
「分かれや。…憂の視線も、声も心も…どれか一つでも俺以外の奴に向くのが気に入らねえ。人が大事に仕舞い込んでるもん気安く見られるのも腹立つんだよ」
「…相変わらずの束縛屋だね」
「熱烈って言えよ」
言うと同時にキスが降ってきて深く口付ける。
最初はただただ受けるだけで精一杯だったそれも、息の仕方を覚え柊の舌に合わせて動かすことで気持ちの良いものだと思えるようになってきた。
シャツの隙間から入ってくる手を止める理由は無い。
夫婦だからというのはもちろんだが、それよりもこの柊という男にどんどん惹かれていっているから。
最初の無理矢理に近い暴力的なほどに与えられる快感とは違う、心地の良いそれにどんどん思考は鈍くなっていく。
そしてそんな柊の腕に抱かれたまま、翌日の朝を迎えた。