灰を被らないシンデレラ
「…あん時は頭に血が昇ってたんだよ。誰かさんがその辺の適当な男に身体売ろうとしてたせいでな」
「適当じゃないよ。ちゃんと好みの人選ぶつもりだったよ」
「俺以外は全部同じなんだわクソが」
もしかしてこれはやきもちというものだろうか。
そう思うと途端に目の前の凶悪面が可愛く見えてくるのだから不思議だ。
胸にじんわりと温かいものが広がるのを感じながら、憂は不貞腐れる夫の頬にキスをした。
「抵抗しなかったのは…嫌じゃ無かったからだよ」
「…只のビッチじゃねえか」
「違うよ。柊さんだからだよ」
耕介に押し倒された時に確かに感じた不快感と嫌悪感。
それを遥かに上回る拒絶反応。
全てが気持ち悪くて怖くて堪らなかった。
不思議なのは、それを柊に感じた事は一度も無い事だ。
初めてだったあの時でさえも、驚いたし嫌だったけど、嫌悪や恐怖は感じなかった。
好みだったとか、婚約者だったからとか、元より覚悟を決めてあの場に行ったからとか、並べようと思えば色んな理由はあると思う。
けど一番は、柊は最初から優しかったから。
確かに強引だったけど、本気で振り払おうと思えば振り払えたし、いつでも逃げ出せた。
会うのは初めてのはずなのに、そこには確かに自分への強い愛情があって、それが嬉しく思えてしまったのだ。