灰を被らないシンデレラ



新しい義母は父の会社の専属デザイナーで既に復職しており、これまで黎の世話は主にベビーシッターに任せていたが、今後は跡継ぎとしての教育の為に憂が面倒を見ろとの事だった。


「お前にはそれ相応の教育を施してきた。この機会に自分の立場を見直せ」


しかも父はただ命令するだけでは憂が暴挙に走ると思ったのだろう、契約を持ちかけてきた。

黎を正しく教育出来ていればそれ以上の監視はしないし、金も好きなだけ使って良い。そういう内容だ。


悔しいかな、憂は生来の聡明さでたかだか17歳の子供ではこの契約に背き一人で生きていけるほど世の中が甘くない事くらいは分かっていた。

噛み締めた唇から血が滲むほど腹も立ったし悔しくて堪らなかったが、最終的に憂はその条件を呑むことにした。



そうしてそれから3年が経ち、現在黎は5歳にしては優秀過ぎるほどの秀才ぶりを発揮していた。


憂だって父親ほど鬼ではない。
自分を素直に慕ってくれる弟の事は愛おしく思っている。
けれどそれ以上に同情の気持ちがあった。

あんな親の元に産まれてしまった哀れな弟。
男に産まれてしまった事で自分より更に窮屈な思いをするだろう。


けれど憂の力では経営者としての才能だけはずば抜けている父親にはどうする事も出来ない。

だからせめて幼少期だけは幸せであったと思わせられるよう、憂は優しくて素晴らしい姉を演じるのだ。







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