灰を被らないシンデレラ
「好きだよ、柊さん」
言葉にするととても恥ずかしいはずの言葉が、つい口から漏れ出てしまった。
耕介から逃げて柊の胸に飛び込んだあの瞬間、憂の心は安心と柊への恋心でいっぱいになってしまった。
「柊さんは…私のこと好き?」
元ヤンで、何一つ取り柄のない自分を愛してくれるだろうか。
期待と不安でせめぎ合う気持ちのまま見つめれば、すぐに答えは返ってきた。
「当たり前だろ。俺のがずっと好きだわ」
愛してくれる人なんて誰も居なかった。
母は自分を捨て、父は物のように扱った。
周りの男達も好きだなんて口先だけで言いながら、己の劣情を押し付けてくるだけだった。
でも柊は、柊だけは、どんな自分でも受け入れてくれた。
初めて会ったあの日、誰でも良いと見境なく男を誘おうとした自分を知りながらも許してくれた。
いつだって憂の願いを尊重してくれた。
だからこそ、柊だけが大好きなのだ。
それからどちらともなく唇が触れ合い、お互いを求めてより深く口付ける。
柊の手が肌を撫でる度、甘い痺れが頭の中に走って熱に浮かされていく。
柊の胸の内を言葉で聞いたからだろうか、いつもより感度が高まっている気がして勝手に甘い声が漏れてしまう。
己にのしかかる重みでさえも愛しく、憂はねだるように柊の首に腕を絡ませてゆっくりと自身の元へ引き寄せていった。