灰を被らないシンデレラ
むしゃくしゃしながら控え室までの道のりを歩いていると、男女の揉める声が聞こえてきた。
見ればどうやら男が女に夜の誘いを持ちかけているようだった。
男女共に顔は知っている。
特に女の方はまた違った意味で印象に残っている。
臣永家の長女といえば、その母親はかつての臣永夫人でありかなり男関係が激しかったらしく、不倫の末に行方をくらませたと有名だ。
彼女はその女に捨てられた一人娘だ。
ある意味自分と似たような境遇なので親近感とまではいかないが多少同情の気持ちが沸いたのを覚えている。
しかし母親がどうあれ彼女はれっきとした臣永家の人間。
さぞ深淵の令嬢か気の弱いだけの従順な女として育てられてきたのだろうと思うと、一気に興味が失せた。
「なあ、今夜いいだろ?」
男の方はそこそこ名のある資産家の子息だ。
壁に手をつき覆う形で迫られながら、女はやめてください…と弱々しい声で抵抗する。
「君さ、その顔と体で男と遊びまくってるって裏では有名だぜ?」
ほらみたことか。
一見どれだけ上品ぶっていようが、化けの皮一枚剥がせば結局こんなもんだ。
実際あの女だって、口では嫌がる割に大した抵抗も見せない。