灰を被らないシンデレラ
「柊さん、起きてる?」
柊は相変わらず多忙だ。
けれど一時よりは少し休みを取れる時間が多くなり、日曜日は家にいる事が増えた。
それに合わせて憂も日曜日はシフトに入らない事にした。
いつだったかの会話にあった、夫の為に時間を空けてることにしたのだ。
だから比較的日曜の朝は起きるのが遅い。
前日の夜に体を重ねることも要因の一つではあるのだろうが、今日は輪をかけて起きる気配が無い。
「柊さーん…」
身体に巻き付いた柊の腕をトントンと叩くが反応は無い。
ぐっすり寝入っているところを起こすのも忍びなく、知恵の輪の如く腕を解いて抜け出す事に成功した。
そのままシャワーを浴びようと風呂場に向かって鏡越しに自分の姿を見れば、少しは薄くなったが未だ赤黒く変色した頬が痛々しさを強調していた。
口の中はすでに治っており時折触れると痛むくらいで日常生活に支障はないが、やはり見ていて気持ちのいいものでは無い。
それなのに柊はそこに優しく触れながら好きだと言ってくれる。
初めて人から愛してもらっているという実感が湧き、泣きたくなるほど嬉しくなる。
こんな時間が続けばいいと、本当に願っていた。