灰を被らないシンデレラ



お菓子作りは神経を使う。

きちんと用量を守らなければ失敗しか先はないので気を遣わなければならない。
ケーキとあれば尚更だ。


今日教わるのがケーキだと聞き、憂は自然と力が入っていた。

来月の11月には柊の誕生日が控えている。
せっかくならば誕生日ケーキは作ったものをプレゼントしてあげたかった。

いつもより入念にメモを書き込む憂に「なんだか気合い入ってるね」と香里は笑って言った。


その日に出来上がったものはまあまあな出来ではあったが、全く納得のいくものではなくこれは練習せねばと心に決めた。


「なかなか治らないね、顔の傷」


調理後の後片付けの手を動かしながら、香里が心配そうに眉を下げて話しかけてきた。


「ストーカーとか大変だったね。…ごめんね、一緒に帰ってあげればよかった」


夫がいる事を知っている人には暴力を疑われないようきちんと事情を話していた。

香里にももちろん説明していて、彼女はその事ををとても気に病んでいた。






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