灰を被らないシンデレラ
黎の眠る20時以降になると、憂の良家の娘としての仮面は剥がれ落ちる。
露出の多い服を見に纏い、濃いメイクを施して夜の街へと繰り出していく。
「あっ、憂じゃーん」
騒がしいクラブのカウンター席で、バーテンと話し込んでいた仲間の男が憂を見つけて手を挙げる。
「遅かったじゃん、何してたの?」
「うっさいな、詮索しないでくれる?」
肩に添えられた手を払い、バーテンに適当な酒を頼む。
「相変わらずつれない奴。…まあそこがソソるんだけどさぁ」
「キモい目で見んな」
目の前に酒が置かれ、何の種類なのかも確認せず一気に煽る。
憂の経験上、こういう場では一滴も残さず飲み干しておかなければ知らぬ間に薬を盛られているなんて事もあり得るのだ。
散々憂に邪険に扱われながらも、男は何かと憂に絡んでくる。
身体目当てなのが一目瞭然だ。
それも仕方がない。
憂の身体は男を誑かすことにかけては一級品だった母親の遺伝子と幼少期からの性教育の賜物により、重力に負ける事のない豊満な胸と引き締まった腰に加え、上向きで張りのあるヒップラインを持ち、それらは男達の情欲をこれでもかと刺激する。
だからか、そんな下心を思春期からずっと向けられ続け今ではそういう行為に不快感しか抱かない。