ヤンキー高校のアリス
「ありす」
それを聞いた足立くんは目を見開いて固まった。固まるようなこと?
「そう。新入生代表の挨拶を頼まれるほどの才女。守野有朱さんだ。覚えておけよ、足立ルイス」
八王子くんが足立くんの肩をたたく。わたしは八王子くんの大げさな言葉に照れながら、足立くんに自己紹介をした。そういえば、この中で自己紹介をしていなかったのは足立くんだけだ。
「才女かどうかは知らないけど……。そう。守野有朱です。Aクラスの。よろしく……」
「うん……どうも」
先ほどの威勢はどこへ行ったのだろう。おざなりな返事にわたしが首をかしげていると、千住くんが棒付きキャンディを口から出して、言った。
「【姫】。学年の紅一点。噂になってる。よくも悪くも」
「噂?」
「【クイーンオブハート】に目をつけられたってことだよ」
八王子くんが付け加えた。千住くんといい八王子くんといい、何か知っているようだ。
「あの、【クイーンオブハート】って、何?」
「【女王】麗華をかかげる女子の組織だ。二学年と三学年の女子九名で構成されてる」
目の前にある説明書を読み上げるかのように、八王子くんが答えた。
「【クイーンオブハート】はもとは南中のヤンキー勢力があの麗華を持ち上げるために作ったものだ。それが他勢力を吸収し、大きくなって、三年かけて学校を支配した。どこの中学であれ、女子生徒は【クイーンオブハート】の一員とみなされる。そうやって【クイーンオブハート】は今日までやってきた。本来は【姫】……有朱ちゃんも、取り込まれる予定だったんだと思うよ」
「要するに、リーダーの居る女子のあつまりってこと?」
「平和的に解釈するならそうなる。本当に平和的に解釈するならね」
「【chess】っていうのは、【クイーンオブハート】の親衛隊のひとつ。だから昨日今日で急展開になった」と千住くんが付け加える。
「どこかのアホが【姫】だなんてかるがるしく言うから……まったく」
「学年の紅一点が【姫】じゃなくて何だっていうんだよ」と足立くんが言い返す。
「それにお前ら、やたら清音に詳しいな?」
「キミが考えなしなだけ、大見得を切る前に考えて」と千住くんが言って、再びあめ玉を口に含んだ。
「正直、俺、もうキミと関わり合いになりたくない」
「へ? なんでだよ千住。東中の時みたいな面倒なわだかまりもなくなったってのに」
「わかんないかなぁ足立。彼は面倒ごとを避けたいタイプだろう?」
八王子くんがにこにこして言った。
「君、面倒ごとの化身じゃないか。【狂犬】の名前は伊達じゃないね!」
「面倒ごとの化身ってなんだよ!」
「入学早々、清音の全勢力に向けて喧嘩売るような奴のこと」と千住くん。完全に呆れている。「ようするにキミ」
「【クイーンオブハート】も【騎士団】も【chess】も全部敵に回すような奴、君しかいないよ、面白すぎ」八王子くんが手をたたく。
足立くんが顔を真っ赤にした。
「う、うるせえよ! あれは、あれはだなぁ!」
「あの!」
わたしは止まらない会話の流れを遮って、彼らを順繰りに見た。
足立くん、千住くん、八王子くん。
それぞれの表情、それぞれの思いがあった。でもこれだけは言っておかなきゃ。
「わたし、【姫】じゃないですから。守野有朱。ただの有朱です」
「そうはいかないよ」と八王子くんが即答した。
「足立の宣言のおかげで、足立が【姫】を抱えてることは全校に知れ渡った。これから足立が何かやらかすたびに、有朱ちゃんは巻き込まれることになる」
「え、ええー……?」
こんなことが頻繁に起こるの? 女子の先輩に詰められたり知らないヤンキーに襲われそうになったり、この二日でもういっぱいいっぱいなのに、これ以上何かが起こるの?
「ちょっと、いやなんですけど……」
「そこで、だ。足立。男なら責任を取らなきゃならないだろう?」
八王子くんがわたしをびしりと指さした。
「僕たち三人で、【姫】の護衛をしようじゃないか」
それを聞いた足立くんは目を見開いて固まった。固まるようなこと?
「そう。新入生代表の挨拶を頼まれるほどの才女。守野有朱さんだ。覚えておけよ、足立ルイス」
八王子くんが足立くんの肩をたたく。わたしは八王子くんの大げさな言葉に照れながら、足立くんに自己紹介をした。そういえば、この中で自己紹介をしていなかったのは足立くんだけだ。
「才女かどうかは知らないけど……。そう。守野有朱です。Aクラスの。よろしく……」
「うん……どうも」
先ほどの威勢はどこへ行ったのだろう。おざなりな返事にわたしが首をかしげていると、千住くんが棒付きキャンディを口から出して、言った。
「【姫】。学年の紅一点。噂になってる。よくも悪くも」
「噂?」
「【クイーンオブハート】に目をつけられたってことだよ」
八王子くんが付け加えた。千住くんといい八王子くんといい、何か知っているようだ。
「あの、【クイーンオブハート】って、何?」
「【女王】麗華をかかげる女子の組織だ。二学年と三学年の女子九名で構成されてる」
目の前にある説明書を読み上げるかのように、八王子くんが答えた。
「【クイーンオブハート】はもとは南中のヤンキー勢力があの麗華を持ち上げるために作ったものだ。それが他勢力を吸収し、大きくなって、三年かけて学校を支配した。どこの中学であれ、女子生徒は【クイーンオブハート】の一員とみなされる。そうやって【クイーンオブハート】は今日までやってきた。本来は【姫】……有朱ちゃんも、取り込まれる予定だったんだと思うよ」
「要するに、リーダーの居る女子のあつまりってこと?」
「平和的に解釈するならそうなる。本当に平和的に解釈するならね」
「【chess】っていうのは、【クイーンオブハート】の親衛隊のひとつ。だから昨日今日で急展開になった」と千住くんが付け加える。
「どこかのアホが【姫】だなんてかるがるしく言うから……まったく」
「学年の紅一点が【姫】じゃなくて何だっていうんだよ」と足立くんが言い返す。
「それにお前ら、やたら清音に詳しいな?」
「キミが考えなしなだけ、大見得を切る前に考えて」と千住くんが言って、再びあめ玉を口に含んだ。
「正直、俺、もうキミと関わり合いになりたくない」
「へ? なんでだよ千住。東中の時みたいな面倒なわだかまりもなくなったってのに」
「わかんないかなぁ足立。彼は面倒ごとを避けたいタイプだろう?」
八王子くんがにこにこして言った。
「君、面倒ごとの化身じゃないか。【狂犬】の名前は伊達じゃないね!」
「面倒ごとの化身ってなんだよ!」
「入学早々、清音の全勢力に向けて喧嘩売るような奴のこと」と千住くん。完全に呆れている。「ようするにキミ」
「【クイーンオブハート】も【騎士団】も【chess】も全部敵に回すような奴、君しかいないよ、面白すぎ」八王子くんが手をたたく。
足立くんが顔を真っ赤にした。
「う、うるせえよ! あれは、あれはだなぁ!」
「あの!」
わたしは止まらない会話の流れを遮って、彼らを順繰りに見た。
足立くん、千住くん、八王子くん。
それぞれの表情、それぞれの思いがあった。でもこれだけは言っておかなきゃ。
「わたし、【姫】じゃないですから。守野有朱。ただの有朱です」
「そうはいかないよ」と八王子くんが即答した。
「足立の宣言のおかげで、足立が【姫】を抱えてることは全校に知れ渡った。これから足立が何かやらかすたびに、有朱ちゃんは巻き込まれることになる」
「え、ええー……?」
こんなことが頻繁に起こるの? 女子の先輩に詰められたり知らないヤンキーに襲われそうになったり、この二日でもういっぱいいっぱいなのに、これ以上何かが起こるの?
「ちょっと、いやなんですけど……」
「そこで、だ。足立。男なら責任を取らなきゃならないだろう?」
八王子くんがわたしをびしりと指さした。
「僕たち三人で、【姫】の護衛をしようじゃないか」