ヤンキー高校のアリス
美術部
※ ※ ※
「許せないのは」
千住くんが綺麗な顔をしかめて隣を歩いている。
「勝手に俺を巻き込んだ八王子と何の疑問も持たないで賛成した足立」
「そ、そんなに怒らなくても……」
「怒ってない」
いや怒ってるよ。怒ってるオーラが出てるよ。
「じゃあ、一人で帰れるから、千住くんは家に帰っても……」
「だめ。俺だっておひいを家まで無事に送らないといけない」
「おひいって……」
「【姫】より柔らかくて呼びやすい。それに、」
帰り道はぽかぽかとした陽気に包まれている。わたしが一年の【姫】だとか、女子集団【クイーンオブハート】だとか、その親衛隊だとか、そういう面倒くさいことさえなければ楽しめたはずだった。
千住くんは鞄も持たずにポケットに手を突っ込み、ゆったりとわたしの隣を歩いている。
「それに?」
いつまで経っても言葉の続きが出てこないので、わたしは言葉の先を促した。けど、千住くんはぷいとそっぽを向いた。
「気が変わった。教えてあげない」
「ええ、なんで」
「なんでも」
千住くんはそう言って、新しい飴をぱくんと頬張った。
「俺だけわかってればいっかなって思って」
※ ※ ※
そんなわけで、三人によるわたしの「護衛」が始まった。朝は足立くんが。帰り道は千住くんが。クラスにいる間は八王子くんが。
わたしは今、三人体制で見張られている。しかも全員ヤンキーで、顔が良くて、わたしより背が高い……。
少女漫画の読み過ぎで夢でも見てるのかな?
「おはよう、ありす!」
公園で待ち合わせた足立くんと合流して、朝の光を浴びながら歩く。足立くんはエナメルの鞄を肩から掛けて、わたしは学校指定のサブバッグを持って。
「ありすって呼んでくれるの、足立くんだけだよ」
わたしはぽろっと本音をこぼした。
「あれ以来、誰もわたしのこと名前で呼ばないの。【姫】って呼べば通じると思って……」
「ごめん」
「いや責めたいんじゃなくって!」
わたしは首をぶんぶん横に振りながら、足立くんの顔を見上げた。
「わたし、有朱って名前が好きだから、有朱って呼んでもらえるの嬉しいなって思っただけ」
「お、おう。そうか……」
足立くんは頭を掻くと、そのまま頭の後ろで手を組んだ。
「なら、ありすはオレの特別ってことだ」
「え?」
「あっ、間違えた! オレは、ありすの特別!」
わたしはどう突っ込んでいいか分からなくなってぽかんとしていた。足立くんの声はだんだん小さくなっていく。
「……呼んでいいなら、何度でも呼んでやるし。用がなくても、呼ぶし」
「用がなくても?」
「ありす」
いやに真剣な瞳が、わたしを捕らえた。既視感があった。この涼しい瞳。
やっぱり、どこかで見たことがある。
どこで?
いつ、どこで……?
「見つめ合っちゃって、どうしたの二人と、も!」
足立くんをばーんと突き飛ばしたのは赤い髪。
「抜け駆けは卑怯だなぁ。処すか。足立ルイス。死刑」
「ってーな八王子! オレじゃなかったら転けてんぞ!」
「ふふ」
八王子くんは肩から掛けた学ランをなびかせてくつくつ笑った。
「僕らの姫にちょっかいを掛けるようなら足立でも許せないなあ」
「許せないのは」
千住くんが綺麗な顔をしかめて隣を歩いている。
「勝手に俺を巻き込んだ八王子と何の疑問も持たないで賛成した足立」
「そ、そんなに怒らなくても……」
「怒ってない」
いや怒ってるよ。怒ってるオーラが出てるよ。
「じゃあ、一人で帰れるから、千住くんは家に帰っても……」
「だめ。俺だっておひいを家まで無事に送らないといけない」
「おひいって……」
「【姫】より柔らかくて呼びやすい。それに、」
帰り道はぽかぽかとした陽気に包まれている。わたしが一年の【姫】だとか、女子集団【クイーンオブハート】だとか、その親衛隊だとか、そういう面倒くさいことさえなければ楽しめたはずだった。
千住くんは鞄も持たずにポケットに手を突っ込み、ゆったりとわたしの隣を歩いている。
「それに?」
いつまで経っても言葉の続きが出てこないので、わたしは言葉の先を促した。けど、千住くんはぷいとそっぽを向いた。
「気が変わった。教えてあげない」
「ええ、なんで」
「なんでも」
千住くんはそう言って、新しい飴をぱくんと頬張った。
「俺だけわかってればいっかなって思って」
※ ※ ※
そんなわけで、三人によるわたしの「護衛」が始まった。朝は足立くんが。帰り道は千住くんが。クラスにいる間は八王子くんが。
わたしは今、三人体制で見張られている。しかも全員ヤンキーで、顔が良くて、わたしより背が高い……。
少女漫画の読み過ぎで夢でも見てるのかな?
「おはよう、ありす!」
公園で待ち合わせた足立くんと合流して、朝の光を浴びながら歩く。足立くんはエナメルの鞄を肩から掛けて、わたしは学校指定のサブバッグを持って。
「ありすって呼んでくれるの、足立くんだけだよ」
わたしはぽろっと本音をこぼした。
「あれ以来、誰もわたしのこと名前で呼ばないの。【姫】って呼べば通じると思って……」
「ごめん」
「いや責めたいんじゃなくって!」
わたしは首をぶんぶん横に振りながら、足立くんの顔を見上げた。
「わたし、有朱って名前が好きだから、有朱って呼んでもらえるの嬉しいなって思っただけ」
「お、おう。そうか……」
足立くんは頭を掻くと、そのまま頭の後ろで手を組んだ。
「なら、ありすはオレの特別ってことだ」
「え?」
「あっ、間違えた! オレは、ありすの特別!」
わたしはどう突っ込んでいいか分からなくなってぽかんとしていた。足立くんの声はだんだん小さくなっていく。
「……呼んでいいなら、何度でも呼んでやるし。用がなくても、呼ぶし」
「用がなくても?」
「ありす」
いやに真剣な瞳が、わたしを捕らえた。既視感があった。この涼しい瞳。
やっぱり、どこかで見たことがある。
どこで?
いつ、どこで……?
「見つめ合っちゃって、どうしたの二人と、も!」
足立くんをばーんと突き飛ばしたのは赤い髪。
「抜け駆けは卑怯だなぁ。処すか。足立ルイス。死刑」
「ってーな八王子! オレじゃなかったら転けてんぞ!」
「ふふ」
八王子くんは肩から掛けた学ランをなびかせてくつくつ笑った。
「僕らの姫にちょっかいを掛けるようなら足立でも許せないなあ」