ヤンキー高校のアリス
※ ※ ※
「どうしたの、姫。ぼうっとして」
わたしがお弁当をつつく手を止めていると、向かいでコンビニ弁当を食べ終えた八王子くんがわたしの顔をのぞき込んでいた。
「何か悩み事?」
「悩み事って言うか……」
……言ってもいいかどうか迷うな。
八王子くんはみんなが言うとおり、ちょっと読めないところがある。
まさか、千住くんのことで悩んでるって言ってもなぁ。言われた方も困るだろうし。
千住くん。わたしは――あんなに寂しい目をした人を知らない。お父さんを亡くした時のわたしだって、あんな顔はしていなかったと思う。
千住くんが悩んでるなら力になってあげたい、けど……。
『キミのことは嫌いじゃない』
どう考えればいいのかわかんないなー! 参ったなあ。
わたしが脳内で百面相をしていると、八王子くんは柔和な笑みを浮かべた。
「悩み事……さては男関係だな」
「えっ! 嘘! バレてる!?」
八王子くんが口の端をきゅっと上げた。
「はは。簡単だよ。姫の事なら何だって分かる」
一瞬遅れて、カマをかけられたのだときづく。
「も、もう! そういうのやめてよ……!」
「ふふ。で、僕らの姫を困らせてるそいつは、一体どこの誰かな」
八王子くんは長い足を組み替え、向かい合った机に肘をついて、わたしの顔をじっとのぞき込んだ。細められた目の輝きが少しこわい。
「どこの誰って……そんなの言えない」
「僕に言えないこと?」
「うん……」
まさか千住くんとどう向き合っていいかわかんないです! なんて言えないし。
あの三人の関係も、よく分かってないし……。
「姫」
手が伸びてきて、顎をすくい上げられる。目が遭った。
「教えて?」
「ああ、えええ、ええと! ええと! なんというか!」
イケメンに顎クイされて見つめられている~!
わたしが完全フリーズしてぼーっと八王子くんと見つめ合っていると、
「うーん……千住白兎かな」
一層低い声が聞こえた。
「……へ」
「足立は何かあればすぐ分かる。顔に出るからね。消去法であいつだ、違う?」
「へ、え」
間抜けな声が出てしまった。それを肯定と受け取ったのか、足立くんはふっと笑った。
「女ぎらいのあいつが、君にそんな顔をさせるなんて……何をしたの? 教えて?」
「い、言えない……」
あたたかい親指がわたしの唇に触れた。ちょっと!
衆人環視!
「ね、言ってくれないと困るよ、姫」
「あ、う……」
千住くんの寂しそうな顔が頭をちらつく。ちらつくんだけど、この状態には耐えられそうにない。顔から手を離してほしい。そういうつもりで手を彼の指にかけたら、そのまま手を取られた。
顔から手は離れていったけれど。
「教えて、姫」
爪のさきに、くちびるの柔らかさが触れた。
「せ、んじゅくんが……」
あまりの恥ずかしさに、わたしは観念して全てを話した。
「昨日の帰り際、あんまり、寂しそうな顔してたから……」
「から?」
「大丈夫かなって、悩んでたの……」
「ふうん」
八王子くんはわたしの手を頬に当てて、くちびるの端を曲げた。
「やさしいね、姫は」
「どうしたの、姫。ぼうっとして」
わたしがお弁当をつつく手を止めていると、向かいでコンビニ弁当を食べ終えた八王子くんがわたしの顔をのぞき込んでいた。
「何か悩み事?」
「悩み事って言うか……」
……言ってもいいかどうか迷うな。
八王子くんはみんなが言うとおり、ちょっと読めないところがある。
まさか、千住くんのことで悩んでるって言ってもなぁ。言われた方も困るだろうし。
千住くん。わたしは――あんなに寂しい目をした人を知らない。お父さんを亡くした時のわたしだって、あんな顔はしていなかったと思う。
千住くんが悩んでるなら力になってあげたい、けど……。
『キミのことは嫌いじゃない』
どう考えればいいのかわかんないなー! 参ったなあ。
わたしが脳内で百面相をしていると、八王子くんは柔和な笑みを浮かべた。
「悩み事……さては男関係だな」
「えっ! 嘘! バレてる!?」
八王子くんが口の端をきゅっと上げた。
「はは。簡単だよ。姫の事なら何だって分かる」
一瞬遅れて、カマをかけられたのだときづく。
「も、もう! そういうのやめてよ……!」
「ふふ。で、僕らの姫を困らせてるそいつは、一体どこの誰かな」
八王子くんは長い足を組み替え、向かい合った机に肘をついて、わたしの顔をじっとのぞき込んだ。細められた目の輝きが少しこわい。
「どこの誰って……そんなの言えない」
「僕に言えないこと?」
「うん……」
まさか千住くんとどう向き合っていいかわかんないです! なんて言えないし。
あの三人の関係も、よく分かってないし……。
「姫」
手が伸びてきて、顎をすくい上げられる。目が遭った。
「教えて?」
「ああ、えええ、ええと! ええと! なんというか!」
イケメンに顎クイされて見つめられている~!
わたしが完全フリーズしてぼーっと八王子くんと見つめ合っていると、
「うーん……千住白兎かな」
一層低い声が聞こえた。
「……へ」
「足立は何かあればすぐ分かる。顔に出るからね。消去法であいつだ、違う?」
「へ、え」
間抜けな声が出てしまった。それを肯定と受け取ったのか、足立くんはふっと笑った。
「女ぎらいのあいつが、君にそんな顔をさせるなんて……何をしたの? 教えて?」
「い、言えない……」
あたたかい親指がわたしの唇に触れた。ちょっと!
衆人環視!
「ね、言ってくれないと困るよ、姫」
「あ、う……」
千住くんの寂しそうな顔が頭をちらつく。ちらつくんだけど、この状態には耐えられそうにない。顔から手を離してほしい。そういうつもりで手を彼の指にかけたら、そのまま手を取られた。
顔から手は離れていったけれど。
「教えて、姫」
爪のさきに、くちびるの柔らかさが触れた。
「せ、んじゅくんが……」
あまりの恥ずかしさに、わたしは観念して全てを話した。
「昨日の帰り際、あんまり、寂しそうな顔してたから……」
「から?」
「大丈夫かなって、悩んでたの……」
「ふうん」
八王子くんはわたしの手を頬に当てて、くちびるの端を曲げた。
「やさしいね、姫は」