ヤンキー高校のアリス

ざわめきの中、わたしは急いで廊下に出る。足立くんのクラス、Cクラスへと顔を出すと、ちょうど血相を変えた足立くんがこちらへ向かってくるところだった。

「宣戦布告ってなに? なんなの?」

「【騎士団】がオレ……いや、オレらに正々堂々喧嘩売ってきやがった」

「わ、わたしも……どうすればいいの?」

「おひいは何もする必要ない」

 背後から涼しい声がした。振り向かずとも分かった。

「千住くん……」

「そう、姫は僕たちが守るから」

 八王子くんまでいる。みんな揃ってしまった。

「【クイーンオブハート】の麗華が絡んでるのは間違いないね。姫は、どちらかというと、麗華に何を言われても動じないことかな。喧嘩の事は気にしないで」

「で、でも……」

 喧嘩って、どこまでやるの。

 言葉が喉につかえる。わたしは彼らの本気の喧嘩を知らない。足立くんの喧嘩はみたことがあったけど――千住くんと八王子くんも絡んでくるとなると……。

「け、けがしないで……」

 わたしは、それしか言えなくなってしまった。

「けがだけはしないで、お願い……」

「ああ」

 足立くんはわたしの両肩をつかんだ。

「ありすは、オレが守ってみせる。今度は必ず」

「……今度は?」

「あ、いや。うん。……忘れてくれ」

「じゃ、放課後に」
「君たちのことだからないだろうけど……怯えて出てこないなんてこと、ないようにね」
 千住くんがEクラスへ、そして八王子くんはAクラスへ戻ろうとする。
「姫、行くよ」

「う、うん……」

 騒々しい空気の中。彼はわたしだけを見つめている。冷たさをはらむまなざし――、やさしい――、



『ありす! ありす!』
『るいくん! るいくんどこー?』
『こっちだよありす! こっちこっち!』


 だれだっけ?

「姫」

 八王子くんがわたしの腕をつかんだ。

「ホームルーム、始まるよ」

 わたしは八王子くんに連れられてAクラスへ戻ったけど。

 一度だけ振り返った廊下の向こうに、まだ足立くんがいた。

 彼はまっすぐ、やっぱりまっすぐわたしのことを見ていた。
< 22 / 68 >

この作品をシェア

pagetop