ヤンキー高校のアリス

姫【side 八王子】

【姫】信仰が定着するのは時間の問題だ。
【姫】は旗印になり、【姫】は偶像になる。足立はいい旗持ちだ。

その陰に隠れて、僕は息をすることに決めた。誰かの陰になることが、僕の生きるすべであって、僕の身の守り方だった。

だから足立にはトップになってもらう必要があるし、守野有朱には【姫】になってもらう必要があった。
僕が最大のパフォーマンスを発揮できるように。
千住は邪魔だったけど、まあどうにでもなる。

そうして僕の清音での生活が始まった。


昔から――できの悪い子供だった。よくできる兄は褒められて、できの悪い僕は罵倒された。それでも愛されたくて。
愛されたくて。
愛されたくて。
頑張ったけれど、兄には及ばなかった。永遠の2番手。
 
家族はもう誰も振り向かない。僕という存在に愛想を尽かしてしまったんだろう。
僕がどこにいようとなにをしていようと知らぬフリだ。
それでも愛されたくて。
愛してほしくて。

気まぐれに手の上で【姫】をもてあそんだ。
彼女はうぶで真面目でけがれを知らなかった。
変にたくましくて、変に後ろ向きだった。

彼女に愛される人はきっと幸せだろう。そう推測するには十分だった。
まぶしいから。
あたたかいから。
やさしいから。

……愛してほしくて。

愛してほしい。

愛して。


僕の【姫】。




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