ヤンキー高校のアリス
「そういえばテスト前だね」

 確かに、美術部の活動が休止期間に入った。一応このヤンキーの登竜門にも、テスト期間が存在するらしい。

 わたしはまあ、頑張れば八割なら取れる気がする。この学校の先生たち、みんなわかりやすい授業をしてくれるから、すごく助かる。

「ふたりはテスト大丈夫そう?」
「大丈夫じゃない」
 千住くんがばっさり切り捨てた。
「俺は授業中寝てたし、こいつ(足立)は義務教育で学校を追い出されただけのただの馬鹿だから」
「だから馬鹿言うなって! 馬鹿って言ったら本当に馬鹿になっちまうだろ! ……じいちゃんが言ってた」

「このとおり」
 千住くんはあめ玉を口に放り込んだ。
「足立の赤点回避は見込めない。大人しく補習を受けることになりそう」

「……ちなみになんだけど」
 わたしはたずねた。
「入学式の後にやった、最初のテストの点数、二人とも何点だったの?」

 わたしは平均八十点。二人は何点だったんだろう?
「ゼロ……」
「零点」

 イケメンそれぞれに絶望的な数字をささやかれて、わたしは思いきりのけぞった。

「うそぉ……」


 テスト期間中だから、放課後はフリータイムだ。私たちはエントランスのテーブルを占拠して、教科書を広げて簡単な数学勉強会をした。

 わかったことは、八王子くんを含めたわたしたちAクラスがかなりの「上澄み」だということ。

 千住くんは話さえ聞けば練習問題は解けるようになること。

 足立くんが、てんで勉強がダメだということの、みっつだった。



「千住くんはまず理系科目で点数を稼ぎ、文系科目は平均三十点を目指します。足立くんはなんとかして全教科で平均三十点を目指しましょう。簡単に言うと、ヤマを張ります」

 早口になってしまうのは致し方ない。だって早口になってしまうから。
 このふたりよく言えば「伸びしろしかない」から!

「おひいが敬語になっちゃった」
 千住くんがシャープペンを華麗に回す。シャーペン回しばかり上手だって仕方ない。
「暗記教科は今からやったんじゃ網羅できないから、二人とも理科の計算問題と、数学にかかってる。……全教科で赤点だなんて、わたし、ゆるしません」

「ええ……」

 千住くんはひたすら面倒くさそうだ。わたしは立ち上がって机にだんと手を突いた。 

「ふたりとも、赤点回避しなきゃいけないんだよ! そりゃあそうなります!」

 熱弁だ。

「先生みたいだな、ありす」

「悠長なこと言ってないで、教科書の練習問題解く! とにかく解いて答え合わせしてどうしてそうなるか理解して!」

「はあーい……」

「ええと……どれだっけ?」

「問一の問題二!!」

「う、うっす!」



 気分は鞭を持ったスパルタの教官だ。頭の中でピシピシと鞭を振るいながら、わたしはふたりの様子を見守った。

 守野ありす、

 今週は鬼になります。


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