ヤンキー高校のアリス
 八王子くんが足立くんのテスト勉強を引き受けてくれたおかげで、わたしは千住くんの赤点回避に向けて本格的に動き始めることになった。まず、文系科目のヤマを張ること……。

「うーん……」
ノートと教科書を往復しながら単元を絞っていく。英語、国語、社会科目……。要点をまとめてルーズリーフにしたためると、わたしはいちど大きく伸びをした。
「あとはわたしの勉強、と」
 時計を見ると十一時を回っている。もうすぐ寝る時間だ。わたしの寝る時間は十二時と決まっている。……お母さんにそう決められているからだ。

 別に寝る時間に文句はないけれど、過干渉すぎるんじゃないかな? と思うことはある。

そのとき、部屋の扉がたたかれた。
「有朱ちゃん」
お義父さんだ。わたしはシャープペンを置いて、廊下に出た。
「はい……?」
 こんな時間に何の用だろう。
「2週間前に大きな事件があったらしいけど、大丈夫だったかな」

わたしははっとした。あの【騎士団】との抗争のことだ。

「どうして知ってるんですか?」
「……専務(せんむ)が」
 苦々しい顔をして、お義父さんは言った。
「自分の息子が、学校で同級生女子がらみの馬鹿をやって謹慎になったと、……酒の席でこぼしてね。八王子専務は――」
「専務って、ひょっとして……八王子くんの、お父さん?」
「酷く酔って……その、罵るものだから。心配になったんだ、有朱ちゃんのことが。なにか巻き込まれていやしないかと……」

 そういえば、2週間前のことはお母さんにもお義父さんにも伝えられていない。反省文一枚で済んでしまったから。

 お義父さんからもお酒の匂いがした。そういえば、そうか。飲み会だっていってたような気がする。

「確かに、いろいろありました。わたしは大丈夫です、だけど――」

 罵る? ののしるって誰を? まさか、八王子くんのこと?
 自分の息子を罵るの? 会社の、お酒の席で?

「八王子くんは大丈夫なんですか……?」

「……わからない。でも【彼】は危険だ」

 お義父さんは深刻そうな顔で告げた。

「近寄らない方が良い……と思う」

 わたしの頭は、真っ白になった。
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