ヤンキー高校のアリス

結果から言うと、足立くんのテストの結果は散々だった。千住くんは理系科目は平均点越えの上位30パーセント。八王子くんは学年トップ。わたしは学年三位。

「オレだって八王子じゃなきゃ赤点回避できたし!」とは足立くんの言いぶんだ。

「失礼な。僕は最後まで君に向き合ったろ」

「でも、学年トップの指導を受けられる事って滅多にないよね……」

 わたしは八王子くんの肩を持つことにした。宣言通り足立くんを平均点まで持っていったのは八王子くんの功績だから。

 平均点が赤点というのも珍しいことだけどね。

「くそぉ~!」

 頭を振りたくって暴れる足立くんを、飴をなめながらじっとり見つめる千住くん。

「いちいちオーバーなんだよ、だから」

「千住ゥ! オマエだって暗記教科は赤点だろうが!」

「キミほどじゃない。俺は三教科、キミは五教科赤点」

「むぎいいいいいいい!」


 足立くんが悔しすぎて奇声を発している。わたしは足立くんをなだめるために「まあまあ」と口を挟んだ。

「でも、平均零点を脱しただけでもすごい進歩だよ。この調子でやっていこう」

「『この調子』じゃあ、いつになったら脱赤点できるかわからないよ」

 八王子くんが腕を組んで鼻を鳴らした。

「馬鹿にすんな! ほんとに馬鹿になるから!」

「足立。一度現状を見なよ。それで、自分に必要な勉強がどのレベルなのかを認識しよう。残念ながら君はかけ算からだ。小学二年生の内容だね」


「ぐっ……今度こそ見てろ……オマエをぎゃふんと言わせてやる」

 ぎゃふんて、死語じゃない?
 わたしがあははと笑うしかなくなっていると、ふいと千住くんが席を外そうとした。お手洗いかな?

 敢えて触れないでいると、足立くんが口を開いた。

「千住。逃げんな」
「……逃げてないけど」
「逃げてるだろ」

 足立くんの声はなぜか険しい。

「オレらから逃げんな。後ろ暗いところがないんならな」
 八王子くんは何も言わずに腕を組んでいた。
「……逃げてないし」
 千住くんはもう一度言い、再び席を外そうとした。その背中に、足立くんが声を掛ける。

「なら、良いんだな?」

「なにが?」

「わかるだろ。オレより頭良いんだから」

 ひょっとしたら、この場で何が行われているのか分からないのは、わたしだけかもしれない。
「……何の話?」

「姫に関係あるけど、姫には全く関係ないはなし」

 謎かけのような言葉だ。

「ともあれ、ここは外してくれるかな。姫に見せるものじゃない」
 そこへ、足立くんの声が飛んでくる。
「いや、八王子、オマエも外せ。すぐ済む」

「あーはいはい。ほんとの【王子様】に任せますよ」
 八王子くんはそうおどけてみせると、わたしに手を差し伸べた。

「とりあえず、はずそうか、姫。僕とデートしよう」

「ふざけんな」
「殴るよ」

 にらみ合っていたヤンキーふたりから文句を受けながら、八王子くんは笑った。
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