ヤンキー高校のアリス
※ ※ ※

『たすけてーッ! やー! やだーッ!』
 抱え上げられたわたしは、力一杯おじさんの髪の毛をひっぱったり背中をたたいたりしたのだけれど、何の意味もなかった。おじさんはわたしをどこか遠くへ連れて行ってなにかをしようとしてる。本能的に恐怖した。スカートをまさぐる指がこわかった。こわい。こわい。
『るいくん! るいくんたすけて! るいくん! るいく、』
『うるさいなぁ』

 おじさんは「なにか」をわたしの口に詰め込む。わたしはおののく。

『うー! うー!!』

 あのあと、どうなったんだっけ?
 わたしは、どうなったんだっけ……?





「足立。どうしたのその傷」
「自分で噛んだ」
「は?」
 手の甲からだらだらと血を流しながら、足立は力なく笑った。
「オレじゃだめだ。千住。頼むわ」
「何を?」
「……【姫】の送迎。オマエ、よくあの程度で済んだよな。見直したわ。ほんと尊敬する」
 さすがの千住も、それを聞いて顔色を変える。
「あの程度って……キミまさか……!」
「……あぶねー! こんちくしょう! 中学生の性欲かよ! ばっかじゃねえの」

 絶叫した足立は、血だらけの利き手をだらりと垂らして、顔を覆った。

「十年越しの片思いもさ、ここまで来ると呪いなんだわ。わかんだろ? オマエ賢いし」
 




『はなせ! ありすをはなせ! このやろう! この!』
『邪魔だよお、オスガキには興味ないんだよ』
『はなせ! はなせ! ありすをはなせ! おれはありすの、ありすの未来の、』
『うるっさいなぁ、どけよ』
『あぐっ!』


 
「――オレはありすを守れれば十分なはずだったのにな」
「……足立、」
「強くなって、てっぺん取れればそれでよかったはずなのにな。オレの姫、だなんて思い上がりにもほどがある。あのとき救えなかったくせに、よく言う」
「……あのさ、足立」
「このうえ抵抗もできないありすに手ェだしたら、あのクソ野郎と変わらない」
 流血したままの手を見つめ、千住が口を挟んだ。

「足立さ。俺が思ってるよりもずっと、おひいのこと、愛してんだね」

「まあな」

 足立はそこできびすをかえした。

「あと、頼むわ。あ、手ェだしたらそのときこそオマエのこと殺すかもしれねえ。よろしく」
「……出さないよ」
「これでもオマエのこと買ってんだぜ、オレ」
「安心して。……そういう気持ちは、まだないから」

 足立はそれを聞いて安心したように微笑した。


「たのむよ」
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