ヤンキー高校のアリス ――アリスは誰を選ぶのか?――
おはなしのはじまり 【side:??】
「……おーおー。こわいこわい。こわい犬ほどよく吠える。こわいからあの子、逃げちゃったね。かわいい子だったのに」
「うるせんだよテメエ。マジふざけんな。何の関係もない女に見られたんだけど」
足立は汚れたトレーナーを脱ぎ捨てた。黒髪がふわりと舞い上がり、そして凪ぐ。
「関係ねえ人間を喧嘩に巻き込むのは、オレの【ヤンキー道】に反する!」
「だからその【ヤンキー道】ってなんなわけ? 足立ルイス」
数人のヤンキーを侍らせた番長らしき少年が口を開いた。こちらは髪を赤く染めた、いかにもという風貌だ。けれど、その口調には物腰の柔らかさが目立つ。
「僕にも分かるように説明してくれる?」
「オマエにゃわかんねえよ八王子縞。オマエみたいなクソヤンキーにはわかんねえ。説明する気もねえ」
血の混じったつばを吐き捨てた足立は、再びファイティングポーズをとる。中指を立てて、威嚇するように歯を剥く。
「雑魚に隠れてねえでかかってこいや」
「命知らずだなぁ。僕の噂、東中じゃ聞かない? ああ、聞かないか。僕の専門は裏方だからなぁ」
肩に制服のブレザーを引っかけた八王子は、腕を組んで緩やかに笑う。
「あえて殺さないように手下で痛めつけてやってるの。知らなかった?」
そこへ、新たな声が掛かる。
「じゃあ、俺は足立側に加勢しようかなぁ」
流麗な金髪をなびかせて、棒付きあめ玉をのんびり舐めながら――緊張感もなく登場した美少年がそう告げた。
「同じ東中の仲だし。文句ないだろ、八王子。数の上じゃあそれでもそっちが有利なんだから」
「おや、東中のツートップ勢揃いかぁ、参ったな。東中の【狂犬】と【皇子】が揃ったら……」
八王子は人当たりの良さそうな顔で笑った。
「うーん。でも、君たち犬猿の仲っていわれてなかったっけ? 僕のデータベース上ではそうなってるけど。どうだったかな、千住白兎くん?」
「それは、対立したいヤンキーどもの神輿に乗っただけ。俺は別に足立のこと嫌いじゃないし」
だらりと両腕を垂らし、がりりとかみ砕いたあめ玉の棒をぷっと吐き出して、千住は足立とともに八王子をにらむ。
「やるってんならやるけど、どうする、八王子。ここで騒ぎになったら困るのはキミのほうじゃない?」
見透かすような千住の言葉をきいて、八王子がうっすらと笑んだ。
「ごもっとも。ここは引こうか。そうじゃなくとも、別のところで決着がつくだろうし――」
「何!?」
足立と千住が殺気立つのへ、八王子は高らかに言い放つ。
「待ってるよ、清音学園で」
八王子は両手を広げた。千住は目を見開き、足立はぽかんとしてそれを聞いた。
「ヤンキーの登竜門、別名ヤンキー高校。もちろん君らも、来るだろ?」