ヤンキー高校のアリス
カーテンの外側からかかる声がある。わたしは言いかけた言葉を飲みこみ、たずねた。
「八王子くん? ……授業は?」
「姫が具合悪そうだって聞いたから抜けてきた。入っても大丈夫?」
「だ、」
大丈夫かな? と足立くんに確認を取ろうとしたそのとき、カーテンがさっとあけられて八王子くんが姿を現す。そして足立くんの顔を見てふっと笑った。
「【王子様】、やっぱりいたんだ」
驚いていない。まるでるいくんがここに居ることを、知っていたかのようだ。
「……王子様言うな、八王子」
むっとした様子の足立くんをよそに、八王子くんはるいくんとは反対側に来て、ベッドに腰掛け、ごく自然にわたしの髪に触れた。頬に触れる手が少し冷たくてびっくりする。
「……本当だ、顔色が良くない」
「おい、ありすにべたべた触るな」
「それはこっちの台詞。なに手なんか握ってるの?」
二人の間に火花が散り始める。わたしは慌ててかぶりをふって、二人の間に入った。
「まって喧嘩しないで。あの……八王子くん、るいくんは、その」
昔からの知り合いで。と言いかけた唇に、八王子くんが手を伸ばしてくる。
「ルイスだからるいくん? なら俺のことも縞くんって呼んでもいいんじゃない」
「へ?」
「おい八王子! 調子にのんな!」
「僕、さみしいな」
甘いマスクでささやかれる言葉に、わたしは目を回してしまいそうになる。
「は、はは、はちおうじくん」
「しま」
「……もう!」
「しーま」
「……しま! しまくん! もう、これっきりだから……!」
一回呼んだだけなのに、八王子くんが心底嬉しそうに笑うから、わたしは何も言えなくなる。
「うれしい」
「……おい、そこの八王子。あのな、オレとありすは今、ひじょーに大事な話を――」
「ねえ姫。気が向いたら僕のこと名前で呼んでね」
八王子くんはるいくんの事などお構いなしに続ける。
「いつでも飛んで行くから」
「う、……うん?」
「誰にも傷つけさせないし、誰にも渡さないからね」
そう言い残して、八王子くんは去って行った。まだ授業が終わる時間じゃないのに。どこに行ったんだろう。
「知らねえよ」
とるいくんが言った。思ってたこと、全部声に出てたみたいだ。
「知らねえよあんな、あんな……ええと、悪代官!」
「悪代官?」
「ソデノシタ! 金色のおかし! おぬしも悪よのう!」
るいくんはひとしきり思いつく限りの罵詈雑言(たぶん)を並べて、肩で息をした。
「正々堂々勝負しやがれ……!」
「正々堂々……?」
「ああもう、話逸れまくってるし、何の話してたか忘れたし」
るいくんは自分の前髪をぐしゃりとつかんだ。
「やっぱり嫌いだ、八王子」
「八王子くん? ……授業は?」
「姫が具合悪そうだって聞いたから抜けてきた。入っても大丈夫?」
「だ、」
大丈夫かな? と足立くんに確認を取ろうとしたそのとき、カーテンがさっとあけられて八王子くんが姿を現す。そして足立くんの顔を見てふっと笑った。
「【王子様】、やっぱりいたんだ」
驚いていない。まるでるいくんがここに居ることを、知っていたかのようだ。
「……王子様言うな、八王子」
むっとした様子の足立くんをよそに、八王子くんはるいくんとは反対側に来て、ベッドに腰掛け、ごく自然にわたしの髪に触れた。頬に触れる手が少し冷たくてびっくりする。
「……本当だ、顔色が良くない」
「おい、ありすにべたべた触るな」
「それはこっちの台詞。なに手なんか握ってるの?」
二人の間に火花が散り始める。わたしは慌ててかぶりをふって、二人の間に入った。
「まって喧嘩しないで。あの……八王子くん、るいくんは、その」
昔からの知り合いで。と言いかけた唇に、八王子くんが手を伸ばしてくる。
「ルイスだからるいくん? なら俺のことも縞くんって呼んでもいいんじゃない」
「へ?」
「おい八王子! 調子にのんな!」
「僕、さみしいな」
甘いマスクでささやかれる言葉に、わたしは目を回してしまいそうになる。
「は、はは、はちおうじくん」
「しま」
「……もう!」
「しーま」
「……しま! しまくん! もう、これっきりだから……!」
一回呼んだだけなのに、八王子くんが心底嬉しそうに笑うから、わたしは何も言えなくなる。
「うれしい」
「……おい、そこの八王子。あのな、オレとありすは今、ひじょーに大事な話を――」
「ねえ姫。気が向いたら僕のこと名前で呼んでね」
八王子くんはるいくんの事などお構いなしに続ける。
「いつでも飛んで行くから」
「う、……うん?」
「誰にも傷つけさせないし、誰にも渡さないからね」
そう言い残して、八王子くんは去って行った。まだ授業が終わる時間じゃないのに。どこに行ったんだろう。
「知らねえよ」
とるいくんが言った。思ってたこと、全部声に出てたみたいだ。
「知らねえよあんな、あんな……ええと、悪代官!」
「悪代官?」
「ソデノシタ! 金色のおかし! おぬしも悪よのう!」
るいくんはひとしきり思いつく限りの罵詈雑言(たぶん)を並べて、肩で息をした。
「正々堂々勝負しやがれ……!」
「正々堂々……?」
「ああもう、話逸れまくってるし、何の話してたか忘れたし」
るいくんは自分の前髪をぐしゃりとつかんだ。
「やっぱり嫌いだ、八王子」