ヤンキー高校のアリス
 ごめん。
 千住くん、ごめん。

「最初に会ったときから、ずっと気になってました」

 ごめんなさい。

「態度が悪くてごめんね。でも、どうしていいか分からなくて。かわいいなって思った自分にイライラしてた」

 千住くん。
 わたしの目に涙の膜がはる。

「入学式で、堂々と演説するのを見てて、違う世界の人だと思ったけど」

 千住くんの指がわたしの涙を拭った。

「勉強教えてくれるときのおひいは、俺と同じものを見てくれたよ」
「ごめんなさい……!」

「うん、わかってた。おひいが、誰かのことずっと好きなのは、うすうすわかってた。……泣かないで」

 千住くんは困ったように眉を下げた。

「抱きしめたくなるから、泣かないで」

 千住くんのことを傷つけたくなかった。でも、自分の気持ちにも、嘘はつけなかった。
 どうしたらよかったんだろう。どうすればいいんだろう。どうしたら。

 引き寄せられて、後ろ頭をかき抱かれる。
「抱きしめちゃった。足立に殺されちゃうかな。……それとも、おひい、怒る?」
「おこ、らない……」
「うん、ありがと」
 千住くんは耳元でささやく。唇が耳に触れた。
「ずっとこうしたかったよ、俺」

それをきいて、わたしの涙腺は決壊してしまった。
 子供みたいに泣くわたしが泣き止むまで、千住くんはそうしていた。


「俺は、これからもおひいのこと守りたい。守らせてくれる?」

「千住くんはいつもわたしの味方でいてくれるね」

「おひいのこと好きだから」

 わたしはまた言葉につまり、千住くんに気を遣わせてしまう。

「困らせちゃうね。あんまり言わないようにする」

「……ごめん」

「でも勉強したいのは本当だから、勉強に付き合ってくれると嬉しい」

 千住くんは首をゆるりと傾けた。

「大学、目指そうかなと思う」

「エッ」

「おひいに教えてもらって大学行けたら、なんかあいつらに勝った気がするから」

 なんなんですかその理由は。
「八王子くんに教えてもらうというのは……」
「やだ。あいつきらい」
 即答だった。
「おひいがいい」
「……できるところまでは、頑張るね」
「ん。この夏から始める」


 千住くんは前を向いていた。わたしも、前を向かなくちゃ。

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