ヤンキー高校のアリス
「るいくん」
「あの日、お前を守れなかった」
「るいくんのせいじゃないよ、わたしが」
「ありすのせいでもないだろうが」
るいくんはわたしの顔をのぞき込んだ。
「ありす。オレが守る。オレが守るから。だから――」
言葉の続きは花火の音に掻き消える。
大輪の花が咲く隣で、わたしたちは見つめ合ったまま。
「要するに、その、――好きだよ」
頬を包まれる。あざやかな光の中にいるのに、彼しか見えない。
るいくんしか見えない。ごく自然に、唇が重なる。
わたしが忘れている間に、るいくんはとびきりかっこいい男の人になってしまった。それが、何より腹立たしい。
彼をこんな風にしたのは誰なんだろう。
「ん」
吐息が漏れる。ふれあうだけの行為はだんだん激しさを増していく。
おとがいにかけられる指が、わたしの首を辿って鎖骨へたどりついた。どくんと震えたのは心臓なのか、わたしの女の部分なのか、わからなかった。混乱にも似た、興奮とも言える、強烈な「なにか」に突き動かされて、わたしは彼の背を抱く。
「るいく、ん」
唾液で濡れた唇が、風に晒されてすこしつめたい。るいくんのふしばった指が浴衣の上から胸元をたどると、ぞわぞわして、もう、だめかもしれない。
耳元で低い声が言った。
「今、めっちゃ、おまえのこと抱きたい」
「……、るい、くん」
「でも、おまえの準備できるまで、絶対手出さない。いやだろ、こういうの、本当は」
あのおじさんの声は今は聞こえない。ただ花火の音だけが鼓膜を揺らしている。
わたしはゆっくりるいくんの頬に唇を寄せた。
「るいくんなら、いいよ。……でも、外はいやかな」
「……、……、あー、外、あー、あーあーあー! くそー!」
「ふふ。おあずけ」
ばくばくする心臓の音が花火の音と重なる。
「見て、花火。綺麗だよ」
「……うん」
るいくんはわたしの肩を抱き寄せた。わたしは彼に身を委ねながら、そういえば人の肌ってこういう風に暖かいんだっけ、みたいなことを考えていた。