ヤンキー高校のアリス
夏休みの恋【side 千住】
キレまくってた八王子と別れて公園に来ると、お気に入りの場所に先客がいた。多分、俺はそれを見なければならなかったんだろう。
おひいと足立がキスしてるところを見ても、特別、何かの感情は抱かなかった。
俺は、男としてなにかが欠けてるんだろうなと思う。おひいのことを好きで、好きで、大好きだけど、かわいいと思うけど、二人で過ごせたらどんなに嬉しいだろうと思うけれど、でも、「その先」までは考えられない。思考はぴたりと止まり、解の出ない方程式みたいに宙ぶらりんで、厭だ。
セックスは見慣れていた。
母親があちこちから男を連れ込んで咥えるから、五歳の時には子供の作り方を知っていたし、女の子のおなかに赤ちゃんを作る器官が存在することも知ってた。歪んだ俺の生育環境は、俺の性意識をゆがめた。女の子を見ると「妊娠」という言葉がついて回った。母親が妊娠と堕胎を繰り返すせいで。
あいつが「あんたは気づくのが遅くて、堕胎できなかったのよ」とか言うから。
だから最初におひいをみたとき、この子は妊娠できる、と感じたのと同時に、この子なら抱ける、と頭ん中で判断した俺が、俺自身が気色悪くて厭だった。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪――。
こんな汚い血を増やすようなことを考えるな。
俺の頭の中は、シンプルだ。ただそれだけ。
だから、足立がうらやましい。
うらやましい。
あの子と紡ぐ未来を、祝福できるあいつが、うらやましい。