ヤンキー高校のアリス
※ ※ ※

「【chess】と【騎士団】がぶつかってるってなんで?」
 足立は美術部にたどり着けずに途方に暮れていた。

『ありす、どこにいる?』
 メッセージを打つも、既読にすらならない。

『おひいとはぐれた。足立、ごめん』
これは千住だ。メッセージが次から次へと届く。
『【騎士団】はおひいと、おひいの絵を壊す事が目的で、【chess】は渋谷あずきのためにこれを妨害してる』
『やばい、電池切れる』
「おい、充電しとけよ!」
 送ったメッセージは既読にならなかった。

「くそっ! 八王子は……」

 しかし八王子のメッセージは三日前に送ったものが既読にならないまま放置されている。足立は即座に八王子に連絡をこころみた。

「八王子! くそっ切りやがった! なんだアイツ!」
 怒号と悲鳴と殴打音のなかで、足立は叫んだ。
「ありすー! どこだー!」

※ ※ ※




 誰かに呼ばれたような気がして、目を覚ます。 薄暗くて、少し臭う。
「どこ……?」
 と、後ろ手に縛られて居ることに気づいて、愕然とする。何が起こったのだろう。
「目が覚めたようね」
 明るい方から声がする。わたしは首だけをひねって、そちらを見る。麗華だ。

「……麗華!」
「あはは、いい顔。これから大事なものを奪われるのにふさわしい顔だわ。おいで、あんたたち」
「はい♡」
 猫なで声の男をはじめ、三人の男子生徒がぞろぞろと中へ入ってくる。わたしは汚れたマットの上で身をよじった。ここは……どこだろう?

「好きにして良いわよ。できるだけ惨めな『初めて』にしてあげて」

「!」

「もちろんです♡ 私、処女の泣声が好きで♡」

「うふふ、気色悪いね相変わらず。でもいいよ。たんと可愛がってあげて」

「や……」


『おじさんを』
過去の声がする。
『おじさんをたすけてくれよお……!』

「やだっ! いや、いや、いや!!」

 吐き気がこみあげてくる。涙の味がする。

「やだーっ! だれか! だれかあー!」

「あはははは! 惨め! 全部奪われて抜け殻になっちゃえばいい! 私以外に【女王】はいらない!」

「いや、いや、やめて、いやっ――ふう、ふぐ」
 
 口を塞がれる。頭の中は恐怖で一杯だった、どうしようもなくこわくて、こわくて、こわくて、こわくて――!

――るいくん、るいくん、千住くん、……八王子くん……!
だれかたすけて。
たすけて。

 涙が頬を伝う。スカートがまくり上げられた。



たすけて――。


目の前で扉が閉まり、あたりは真っ暗になった――。
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