ヤンキー高校のアリス

清音戦争

 「……そうですか。話はわかりました」

 扉を閉め切った美術室の中で、あずきさんは頷いた。

「私と有朱さんは表向きは対立することになる。しばらく部活も休む。そして――」

「【騎士団】との決戦のときには、【chess】の力が必要です。『そのとき』になったら、力を貸してください。【クイーンオブハート】に、反旗を翻すことになりますが……」

「それも織り込み済みで、私は貴女に乗りましょう、【アリス】さん」

「ありがとうございます」

 わたしはふかぶかと頭を下げる。あずきさんが居てくれるなら心強い。わたしは何もできない弱者だから、こうすることしかできない。

「……有朱さんもすっかり清音(せいおん)生らしくなりましたね」
 わたしはうつむきかけた顔を上げた。あずきさんはにこやかに微笑んでいた。

「それとも、縞に似たのかしら」
「八王子くん……縞くんには敵いませんよ。わたしなんかまだまだひよっこです」
「でも、裏で根回しをするのは上手みたい。だって有朱さん、黙っていたらそんな風には全然見えないんですもの」
「それは、不幸中のさいわいというか……」
 わたしは襟元をただす。ザ・優等生の仮面が役立つなら、これに越したことはない。
「わたしを(あなど)った向こうが、注意不足だったというか……」
「言いますね」
「わたしだって、怒るときは怒ります」

 わたしははっきりと言った。

「麗華は、わたしを怒らせました。……やり返したいんじゃありません。筋が通らないから、筋を通すまでです」
 あずき先輩は目を(しばた)いて、わたしをまじまじ見つめた。
「罰を受けてほしい訳じゃない。謝ってほしいわけでもない。ただ、彼女はこの学園を好き放題しすぎた。力を持ちすぎた。誰も彼女を止められない。だから」


 放送のアナウンスが鳴り響く。
 これがわたしたちの号砲だ。


「わたしが、麗華を止めます」




『あー。こちら、一年の足立ルイス。一年の、足立ルイス。【騎士団】。そして麗華。おめーらにここで言いたいことがある』

「わたしたちは、絶対に負けません」

『よくもオレのダチをやってくれたな。つーわけで、手っ取り早く宣戦布告する。おめーらと徹底的にやりあってやる。おめーらには【女王】がいるが、オレたちには【アリス】がいる。オレたちは負けねえ』

「……好戦的な煽りですね」
「これくらいやらないと、麗華は重い腰を上げないでしょう?」

 わたしは腰をあげて、美術室の扉を開けた。

「あずきさん。しばらくは敵同士として。……来るべき時が来るまでは」
「ええ。【アリス】。そのときはよろしく」


『オレたちはおめーらを叩き潰す。そこんとこ、ヨロシク』
< 62 / 68 >

この作品をシェア

pagetop