ヤンキー高校のアリス
※ ※ ※


「見ろ、一年の【アリス】だぜ」
「昨日の宣戦布告聞いたか? 俺らどっちにつけばいいんだ?」
「ばっか、【クイーンオブハート】に決まってるだろ」
「でも、【アリス】には足立がついてるぜ。……【アリス】って足立の女なんだろ?」
「えっ初めて聞いたんだけど」

 噂話がほうぼうから突き刺さってきても、わたしは歩くのをやめない。わたしはもう選んだ。何も知らない、守られてばかりの、か弱いアリス(女の子)はもうやめた。

「も、守野さん」
「千代田くん、おはよう」
 D組の陰から千代田くんが出てきた。わたしのことを待っていたみたいだ。
「昨日部活来なかったけど……その、やっぱり例の放送のせい?」
「うん。……渋谷さんとは一緒に居られないからね」
「あ、あの……そんな、そんなことやめて、また美術部で、三人で楽しく……!」
「ごめん」

 わたしは千代田くんに背を向けた。

「それは聞けない」

 わたしはそのままEクラスへ顔を出す。

「千住くん」
「はよ、おひい」
 Eクラスの中でもどよめきが広がっていた。わたしは全てを無視して、千住くんにだけ話しかける。
「今日の放課後はどうする?」
「うーん、数学がいいな」
「わかった。用意していくね」
「足立は?」
「トレーニングするって、どこか行っちゃった」
「学校には来てる?」
「いるはず。連絡してみようか?」


「足立とできてるってほんとだったんだ……」
「俺は千住と付き合ってるって聞いたけど」
「え? 俺は八王子だと思ってた」
「そういやAクラスの八王子、重傷だって」
「何したらそんなことになるんだよ」
「おおかた、麗華様に逆らったんだろ――」


「ごちゃごちゃうるさいな」
 千住くんが大声を出した。
「まだあんなあばずれに従うの、キミたち」  
 立ち上がって、ひそひそとささやいていたヤンキーたちに詰め寄っていく。
「目、腐ってんじゃないの」
 ヤンキーたちが暴力の気配に怯えたのを見て、わたしは声をかける。
「千住くん、ストップ」
 千住くんは犬のようにぴたりととまると、きびすを返してこちら側に戻ってきた。
「ダメだよ。意味もなく暴力を振るうのはいけません」
「はーい」
「じゃ、放課後にね」


「…………」

 Eクラスに落ちる沈黙を背に、わたしはAクラスへと戻る。

「八王子が殺されかけてんだ。やつら、人も平気で殺す」
「八王子ですら殺され掛けてるのに、俺らなんかひとたまりもないんじゃ……?」
「しっ! 【アリス】が来たぞ」

「おはようみんな」

 わたしは笑顔で声を張った。

「今日も一日、よろしくね」

< 63 / 68 >

この作品をシェア

pagetop