ヤンキー高校のアリス
※ ※ ※
そして全てを聞いていたわたしは――。
(わたしもだよ、るいくん)
わたしは、音高く扉を開け放った。【クイーンオブハート】の視線がわたしと千住くんに注がれる。
「麗華。わたしの彼氏に気安く声を掛けないでくれる?」
「【アリス】……!」
「わたしが、あんなことをされて泣き寝入りするような女だと思った? 見くびらないで。あんたの動きなんかお見通しだ」
わたしは怒気とともに拳を握りしめた。
「そうやって、みんなの彼氏も奪ってきたんでしょ?」
その言葉に、
【クイーンオブハート】の半数ほどが、反応した。
「みんなのものは麗華のもの。麗華のものは麗華のもの。どこかのアニメキャラみたいだね。おかしいって思わない?」
――崩れろ。
わたしは一言一言に、その思いを込めた。
「なんであんたのためにわたしたちが全てを諦めなきゃいけないの?」
――崩れろ。
「なんであんたのためだけに、学校生活を縛られなきゃいけないの!?」
――崩れてしまえ!
「なんで、麗華のために、生きてるの?」
「ほんとだ」
誰かが口走った。
「ほんとだ、あたしたち、なんで麗華のために生きてんだろ」
「好きな人まで差し出して……」
「なんでだっけ?」
「ちょっと! なんなわけ!?」
麗華が金切り声を上げた。しかし、一度始まった崩壊は止まらない。
「麗華さま……もう終わりです」
黙っていたあずき先輩が言った。
「もう、終わりです。諦めてください」
「なんなのあずき! あたしが【女王】! 身の程知らずの小娘の言葉に踊らされてるんじゃないわよ!」
麗華があずき先輩に殴りかかるのを、千住くんが止める。
「やめなよ、見苦しい」
「千住白兎。アンタもいずれ、あたしのものに……!」
「なるわけないじゃん。やだよ、お前みたいな女が一番嫌いなんだけど」
引き気味の千住くん。
「あ、あたしを拒否するなんて……!」
【クイーンオブハート】は半分に割れていた。わたしの言葉に目が覚めた者。それでも麗華を信じている者。そしてあずきさん。
「改めて申し込む。――明日、N川の河川敷で、オレと千住、【アリス】、それから『仲間』を連れてお前らを待つ。麗華、【騎士団】。……おめーらはオレらが潰す!」
るいくんがそう言い放つ。真っ二つに割れた女王の|心臓【ハート】は、その言葉をどう受け取っただろうか。
※ ※ ※
決戦の時。
「俺らは勝つよ」
千住くんが言う。るいくんがその肩を小突く。「ひっさしぶりに見た。オマエの【皇子】顔」
「その呼び方嫌い」
あずき先輩の率いる【chess】とも合流し、ちいさな軍団となった【アリス】軍は、河川敷で相手を待った。やがて、向こうから五人ほどの小さな集団が固まってこっちに来るのが分かった。先頭は――麗華だ。
「五人……いや四人?」
「【騎士団】はそもそも、いくつかの小隊に別れていて」
わたしは言った。
「それぞれを【クイーンオブハート】の女子たちが率いていた。だから【騎士】ではなくて、【騎士団】なの。あの様子だと――」
分裂したみたいだ。今日ここに姿を現したのは、おそらく麗華直属の精鋭たち。
「数で圧倒される事はないけど、注意はした方が良いかもしれない」
「やっぱりありす、八王子かなんかが憑依したんじゃねえか?」
「してないよ。尊敬はしてるけど」
そう、八王子くんならきっと――。
わたしは目を細める。
先頭で麗華が声を張った。
「あれだけ大口をたたいておいて、数ばかり集めて、卑怯だと思わないの、【アリス】」
わたしは冷静に言い返した。
「この前までの貴女のまねをしたまでだよ、麗華!」
それが合図だった。双方は、「戦争」にもつれ込んだ。
そして全てを聞いていたわたしは――。
(わたしもだよ、るいくん)
わたしは、音高く扉を開け放った。【クイーンオブハート】の視線がわたしと千住くんに注がれる。
「麗華。わたしの彼氏に気安く声を掛けないでくれる?」
「【アリス】……!」
「わたしが、あんなことをされて泣き寝入りするような女だと思った? 見くびらないで。あんたの動きなんかお見通しだ」
わたしは怒気とともに拳を握りしめた。
「そうやって、みんなの彼氏も奪ってきたんでしょ?」
その言葉に、
【クイーンオブハート】の半数ほどが、反応した。
「みんなのものは麗華のもの。麗華のものは麗華のもの。どこかのアニメキャラみたいだね。おかしいって思わない?」
――崩れろ。
わたしは一言一言に、その思いを込めた。
「なんであんたのためにわたしたちが全てを諦めなきゃいけないの?」
――崩れろ。
「なんであんたのためだけに、学校生活を縛られなきゃいけないの!?」
――崩れてしまえ!
「なんで、麗華のために、生きてるの?」
「ほんとだ」
誰かが口走った。
「ほんとだ、あたしたち、なんで麗華のために生きてんだろ」
「好きな人まで差し出して……」
「なんでだっけ?」
「ちょっと! なんなわけ!?」
麗華が金切り声を上げた。しかし、一度始まった崩壊は止まらない。
「麗華さま……もう終わりです」
黙っていたあずき先輩が言った。
「もう、終わりです。諦めてください」
「なんなのあずき! あたしが【女王】! 身の程知らずの小娘の言葉に踊らされてるんじゃないわよ!」
麗華があずき先輩に殴りかかるのを、千住くんが止める。
「やめなよ、見苦しい」
「千住白兎。アンタもいずれ、あたしのものに……!」
「なるわけないじゃん。やだよ、お前みたいな女が一番嫌いなんだけど」
引き気味の千住くん。
「あ、あたしを拒否するなんて……!」
【クイーンオブハート】は半分に割れていた。わたしの言葉に目が覚めた者。それでも麗華を信じている者。そしてあずきさん。
「改めて申し込む。――明日、N川の河川敷で、オレと千住、【アリス】、それから『仲間』を連れてお前らを待つ。麗華、【騎士団】。……おめーらはオレらが潰す!」
るいくんがそう言い放つ。真っ二つに割れた女王の|心臓【ハート】は、その言葉をどう受け取っただろうか。
※ ※ ※
決戦の時。
「俺らは勝つよ」
千住くんが言う。るいくんがその肩を小突く。「ひっさしぶりに見た。オマエの【皇子】顔」
「その呼び方嫌い」
あずき先輩の率いる【chess】とも合流し、ちいさな軍団となった【アリス】軍は、河川敷で相手を待った。やがて、向こうから五人ほどの小さな集団が固まってこっちに来るのが分かった。先頭は――麗華だ。
「五人……いや四人?」
「【騎士団】はそもそも、いくつかの小隊に別れていて」
わたしは言った。
「それぞれを【クイーンオブハート】の女子たちが率いていた。だから【騎士】ではなくて、【騎士団】なの。あの様子だと――」
分裂したみたいだ。今日ここに姿を現したのは、おそらく麗華直属の精鋭たち。
「数で圧倒される事はないけど、注意はした方が良いかもしれない」
「やっぱりありす、八王子かなんかが憑依したんじゃねえか?」
「してないよ。尊敬はしてるけど」
そう、八王子くんならきっと――。
わたしは目を細める。
先頭で麗華が声を張った。
「あれだけ大口をたたいておいて、数ばかり集めて、卑怯だと思わないの、【アリス】」
わたしは冷静に言い返した。
「この前までの貴女のまねをしたまでだよ、麗華!」
それが合図だった。双方は、「戦争」にもつれ込んだ。