ヤンキー高校のアリス
エピローグ
おしまい
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「きいたよ、無茶したんだって?」
「八王子くんに言われたくないなぁ」
まだ足のギプスが取れない八王子くんは、病室で出迎えてくれた。
「なんで僕が連日【王子様】と千住に詰められてるのか教えてくれる?」
「あはは、ごめん」
「謝って済まないよ。僕、これでも怒ってるんだ」
八王子くんはわたしの手を握る。
「僕の好きな女の子の体に傷をつけるなんて。酷い話だ。【王子様】なんかはもっと怒ってると思うよ。千住だって」
「……これっきりだよ。体なんかもう張らない。怒られすぎて懲りちゃった」
麗華は清音で失脚した。今は警察に居るらしい。るいくんも事情を聞かれているし、わたしも事情を聞かれた。混乱している清音学園のトップには今、あずきさんが居て、麗華政治のあとを整理しているところらしい。
これは、千住くんに聞いた話。
お母さんには泣かれた。それはもう怒られた。怒られて当然だと思う。
わたしはわたしを雑に扱ってしまったから。路傍の石ころみたいに。
みんながこんなに大事にしてくれるのに。人は扱い一つで石ころにも宝石にもなれてしまう。そう思ってたはずなのに、結局自分の価値を左右するのは、いつだって自分だ。自分で自分を投げ出しちゃ、いけない。
「それにさ、それ言うなら縞くんも人のこと言えないよね?」
「あはは、言葉もないね」
「でしょ?」
縞くんはかさぶたになった耳たぶに触れた。そこにあったピアスは、暴行を受けたときに引きちぎられてしまっていて――傷になっている。
「有朱。もう二度とあんなことはしないから」
縞くんがわたしの手をとる。その、点滴を打っていないほうの手の甲に口づける。
「有朱も二度としないで」
「うん。約束する」
「おひい、二度とあんなことしないで」
「しないよ」
「ほんとにしないで」
「しないってば」
千住くんは毎日病室に来てくれる。
「おひい死んだらおひいのこと一生恨む。あと八王子も」
「死なないってば」
「死んじゃうかと思った。おひい死んだら俺の人生も終わるから」
「死なないって」
綺麗な顔はわたしの頬に唇を寄せると、それから腕を伸ばしてぎゅうーっと抱きしめてきた。
「……はー、生きてる、よかった。よかったあ……」
わたしがみずから麗華に刺された後、みんながお見舞いにきてくれた。沢山の話をした。
まだ話していない人が居るとすれば、それはるいくんだ。るいくんは、どれだけ待っても病室を訪れなかった。