ヤンキー高校のアリス
「八王子……しま?」
「そ。じゃあね。紅一点の兎さん」

 こ、……紅一点? 紅一点って何?

 彼は残った男子生徒を引き連れて悠々とAクラスの方へ去って行った。

 Aクラスなのかな? だとしたら、同じクラスだ。

 覚えておくと良いことあるかもね――

 いいことってなんだろう。

 わたしは触れられた髪の毛の房を手でとかして直すと、気を取り直して女子を探しに出かけた。

 だけど――

「いないぃ……なんで……」
 わたしはEクラスの扉に寄りかかってため息をついた。

 どこを見ても学ラン学ラン学ラン……学ランしかいない。

 女子、一人も居ない。

 わたしをのぞいてどこにもいない。


 さっきの八王子くんは、紅一点って言ってた。

 女子、本当にわたし一人? 確かに女子は少ないかもしれないって進路担当の先生はいってたけど、まさかほんとうに一人だなんていわないよね?


「ねえ、邪魔なんだけど、どいて」
「あっ」

 邪魔になっていたみたいだ。わたしはさっとその場を避けてから、ゆったり横切っていく彼の横顔に見とれた。

 綺麗な顔。女の子みたいに透き通った頬に、長い睫毛。それから綺麗な金髪。

「何」
 
 その綺麗な顔が、不満げにこちらを見ている。

「いや、ええと、とっても綺麗だなって……」

「ぶち殺すよ」

「え、ええ!?」

 なめらかに出てきた「殺す」って言葉に驚いている間に、その美少年はふいとどこかへいなくなろうとする。

「待って!」
「待たない。君に用、ないし」

 長い睫毛が誘うように細められた。わたしはその一瞬にさえ目を奪われてしまう。それほど彼は美しかった。

「それに、出会いがしらにじろじろ顔を見るような人間は嫌いだ」

 ……返す言葉もない。

「……ごめんなさい」
「気をつけなよ」

 今度こそ、金髪美少年くんはふいと背中を向けてしまった。

 追いかけてくるな、という無言のオーラが見える。
 
 わたしは途方に暮れ、女子探しを諦めた。
 本当の本当に、女子は一人だけなのかもしれない。

 現に、一年生の教室がある三階には、どこにも女子の姿が見えない。
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