ヤンキー高校のアリス

「参ったな……」

 女子が一人も居ないのは、単純に寂しいというか、なんというか。

 心細い、という感覚が(まさ)る。

 最初に打ち解ける仲間っていうのは本当に大事だ。中学の時も、最初に話しかけたのは女の子。お互いのことが分かって行くにつれ不安が薄れていって、やがて友達になる。友達ができるころには、不安なんか消滅してるものだ。

 しかし、この学年に女子がわたししかいないなんて……。どうやって切り込んでいこうかな。

 わたしはまだ自分の「夢の国・清音学園」を諦めていない。

「……よし」

 Eクラスから反対側のAクラスに戻る間に、わたしは決意を固めていた。

「そうだよ、隣の男子に話しかけてみればいいんだ。女子とおんなじじゃん」

 性別なんか関係ない! 男女の友情は、ある! よし、友達を探そう!
そしてわたしは、隣の男の子に話しかけようとして自分の席に着こうとし――

「この学園に来る女って好きもんだよなぁー」

ぴしり、と固まった。

「ここ、ヤンキー学園って呼ばれてるくらいだぜ」
「きっととんでもねえビッチだぜ、ヤリモクだぜ」
「ビッチ! ぎゃはは」
「なに笑ってんだよー、見られてんじゃん」

 明らかにわたしを見ている。聞かせているんだ。わたしの頭の中が真っ赤になったんだか真っ黒になったんだか分からないところ、誰かが言った。

「だせえことすんなよおめーら」

 凜とした声がいった。

「相手の聞こえるところで陰口ってよお、女々しいと思わねえか」

 わたしの鞄を置いてある隣の席――一番手前の、一番窓側の席の男子が、椅子に座ったまま足を跳ね上げ、机の上に載せた。

「だっせえよなあ、男としてよ」

「足立……またオマエかよ! 何なんだよいちいち! 絡んで来んな!」
 足立と呼ばれた黒髪の男子は、高らかに言い放った。

「オレはオレの道を行く。【ヤンキー道】だ」
「だから何なんだよ【ヤンキー道】って!」
「バッカ。すべてのヤンキーが志すべき道のことだよ。知らねえのか」

 そして彼は口角を上げて、

「知らねえならオレがおしえてやんよ、かかってきやがれ」

 そう言い放った。
 耳のピアスがきらりと光る。

「誰が東中の【狂犬】とやり合うかよ! やらねえよ!」
「ならその陰気くさくてジメジメした女みてえな嫌がらせ、二度とすんな」

 鋭い眼光が、彼らをねめつけた。

「わかったか。【狂犬】に噛まれたくなかったら口に気をつけろ」
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