《マンガシナリオ》キミだけに、この溺愛を捧ぐ
第2話
◯(回想)第1話の続き、学校、教室(朝礼)
流星『なんかかわい』
真琴『へっ!?…か、“かわいい”!?』
流星『だって、てっきり無視されるのかと思ったから反応が初々しくって。隣がやさしそうな女の子でよかったー』
真琴『お…女の子……』
転校生で隣の席にやってきた流星は、真琴のことをすぐに女の子だと気づいた。
『かわいい』とまで言われて、初めてのことに照れながらも困惑する真琴。
(回想終了)
◯回想の続き、学校、教室(朝礼)
流星「で、名前は?」
真琴の顔を覗き込むようにして再び尋ねる流星。
はっとして我に返る真琴。
真琴「お…、大庭…真琴…です」
流星「へ〜、かわいい名前。真琴ちゃんね。よし、覚えた」
ニッと笑ってみせる流星。
それを見て、思わずドキッとする真琴。
真琴(『真琴』という名前も…かわいい?これまで散々、名前も男っぽいと言われ続けてきたのに)
横目でチラリと流星に目をやる真琴。
真琴(それに、初対面でいきなり下の名前呼び。まさかとは思うけど、有島くんって――)
◯前述の続き、学校、教室(次の休み時間)
隣の流星の席には、さっそくクラスメイトの女子たちが集まる。
クラスメイトの女子たち「はじめまして、有島くん♪あたし、エミカっていいます!」
クラスメイトの女子たち「私はミオです♪」
クラスメイトの女子たちは、自己紹介をしながら流星に話しかける。
流星「えっと、こっちがエミカちゃんで、こっちがミオちゃんで――」
クラスメイトの女子たち「すごい!もうみんなの名前覚えてくれたの!?」
流星「うん。俺、女の子の名前覚えるのは得意だから。それに、みんなカワイイからすぐに覚えられる」
それを聞いて、瞬時に流星のほうを振り返る真琴。
クラスメイトの女子たち「キャ〜!カワイイって!」
流星から『カワイイ』と言われたクラスメイトの女子たちはキャッキャッと盛り上がる。
真琴(…やっぱり!女の子慣れもしてるし、有島くんって絶対プレイボーイだ)
女子に囲まれ楽しそうに話す流星を冷めた目で見つめる真琴。
真琴(不覚にも、なんであのときドキッとしてしまったのだろうか…)
流星に『かわいい』と言われ、少し頬を赤くしてしまった自分を思い返す真琴。
真琴(きっと有島くんにとって『かわいい』という言葉は、女の子に対するあいさつみたいなものなのだろうに――)
なぜか少し落ち込んでため息を漏らす真琴。
◯学校、教室(放課後)
終礼が終わり、クラスメイトたちが下校していく。
あずみ「真琴、ごめん。このあと、委員会の集まりあること忘れてた!先に帰ってて」
真琴「うん、わかった」
慌てて教室から出ていくあずみに手を振る真琴。
◯前述の続き、学校、昇降口(放課後)
下駄箱でローファーに履き替える真琴。
そこへ、同じクラスの男友達グループかやってくる。
クラスメイトの男子たち「よう、真琴!」
真琴「おっす」
クラスメイトの男子たち「もしかして、今から帰るとこ?」
真琴「そうだけど、なんで?」
クラスメイトの男子たち「それなら、今からカラオケ行こーぜ」
いつものノリで、仲よさげに真琴の肩を組んでくる男友達。
真琴「え〜、今日はパス。明日の英語の宿題しないとだし」
クラスメイトの男子たち「真面目かっ。そんなの、寝る前でいいじゃん」
クラスメイトの男子たち「真琴がこないと盛り上がんねぇだろ〜」
真琴「よく言うよ。いつも勝手に盛り上がってるくせに」
困り顔の真琴。
クラスメイトの男子たち「それに、今日はただのカラオケじゃねぇよ」
真琴「え?」
クラスメイトの男子たち「親睦会だよ!有島のな!」
それを聞いて顔を向けると、男友達の陰から流星の姿が見えた。
はっとする真琴。
クラスメイトの男子たち「とにかく!この前、オレとの採点勝負に負けて、なんでも1つ言うこと聞くって約束だっただろ?だから、今からカラオケに行く。はい、決定」
真琴「そんなむちゃくちゃな…」
◯前述の続き、カラオケ店(放課後)
流星がいることに違和感を感じつつも、いつものメンバーでカラオケ店に行く真琴。
流星も入れて男子は4人、女子は真琴のみ。
部屋に通され、流星とは一番離れたところに座る。
それぞれ交代で歌っていき、大盛り上がり。
男子に人気のアーティストの激しめの曲を、マラカスを持った男友達に両方から肩を組まれながら熱唱する真琴。
流星もノリがよく、楽しそうにしている。
途中、ドリンクを入れにグラスを持って席を立つ真琴。
ドリンクバーのところで、オレンジジュースのボタンを押す。
流星「真琴ちゃん」
名前を呼ばれて振り返る真琴。
後ろに立っていたのは流星。
真琴「有島くんも飲み物入れにきたの?」
流星「うん」
流星は真琴の隣にコップを置くと、メロンソーダのボタンを押す。
流星「みんなでカラオケって、いつもあんな感じ?」
真琴「まあ、そうだね。初めこそ順番に歌うけど、テンション上がってきたらみんなでいっしょに歌ったり――」
流星「違う、違う。そういうことじゃなくて」
真琴「え?」
キョトンと首をかしげる真琴。
流星「仲いいのはわかるんだけど、フツーに焼く」
真琴「…焼く?」
流星「どう考えたって、真琴ちゃんはこの中ではお姫さまみたいな存在なのに、気軽にハイタッチしたり肩組んだりして」
それを聞いて、目を丸くする真琴。
真琴(お…、“お姫さま”!?…わたしが!?)
恥ずかしさで顔を赤くする真琴。
真琴「な、なに言ってるの、有島くん…!そんなわけないじゃん!わたしなんて、男友達としか見られてないよ」
流星「そうかなぁ。俺ならもし真琴ちゃんと肩組むってなったら、絶対ドキドキするけど」
真琴にとっては衝撃的な流星の言葉の数々にその場で固まる真琴。
真琴(…ド、ドキドキ?わたしに…?)
恥ずかしくなって顔を赤くする真琴。
しかし、ここではっとする。
真琴(はっ…!そうだった…!有島くんはプレイボーイ。きっとわたしをからかっているに違いない)
オレンジジュースの入ったグラスを持って、瞬時に流星と距離を取る真琴。
真琴「も…も〜!有島くん、冗談やめてよ〜!…そ、それじゃあ、先に部屋戻ってるねっ」
冷や汗をダラダラと流し、慌てて部屋に戻る真琴。
その後ろ姿を少し微笑みながら見つめる流星。
流星「冗談…か。冗談じゃないって言ったら、どんな反応見せてくれたんだろ」
やさしく微笑む流星。
そのあとも、時間までカラオケを楽しむ。
――3時間後。
クラスメイトの男子たち「は〜、歌った歌った〜!」
カラオケ店から出てくる真琴たち。
クラスメイトの男子たち「いつも思うけど、3時間パックなんてあっという間だよな〜」
クラスメイトの男子たち「だな〜。ってか、有島ってめちゃくちゃノリいいじゃん!」
クラスメイトの男子たち「それな!しかも、歌もうめーし!」
流星「サンキュ。俺も転校初日から楽しかった」
顔をくしゃっとして笑ってみせる流星。
クラスメイトの男子たち「じゃあ、そろそろ帰るか」
真琴「だね。またね」
クラスメイトの男子たち「おう、また明日〜!」
カラオケ店の前で解散して、散り散りになって帰っていく。
◯前述の続き、繁華街、帰り道(夜)
家に帰るため、繁華街を1人で歩く真琴。
そのとき、後ろから足音がする。
流星「真琴ちゃん、歩くの速いね」
真琴「…有島くん!?」
後ろからやってきた流星に驚く真琴。
真琴「どうしたの?有島くんも家こっちだったの?」
流星「ううん。むしろ真逆」
真琴「は?へ?…じゃあ、なんで?」
流星「もう暗いでしょ。1人じゃ危ないから」
その言葉にぽかんとする真琴。
真琴「でも、すぐそこの駅のターミナルからバスに乗るだけだけど…」
流星「だったら、そこまで送ってく」
突然の展開に少し戸惑う真琴。
真琴「…もしかして、わたしのこと心配してくれてる?」
流星「当たり前じゃん。真琴ちゃんになにかあったらどうすんの」
真琴「でももしなにかあったとしても、わたし柔道黒帯だよ?」
流星「え…、黒帯?」
真琴「うん。だから、たぶんそのへんの男子よりは強い自信あるけど」
ケロッとした表情の真琴に、思わず目が点になる流星。
流星「そ、そうだったとしても…!やっぱり女の子1人で帰らせるのは不安だから」
真琴「どうかな〜。そもそも、わたしなんて女の子に見えないでしょ?どっからどう見ても男子――」
流星「俺には見えるよ。どっからどう見ても女の子に」
想像もしていなかった言葉に思わず戸惑いながらドキッとする真琴。
太樹「真琴?」
そんな2人のところへ、制服姿でサッカー部のエナメルバッグを肩からかけた太樹がやってくる。
真琴「あっ、たっちゃん!」
流星「…“たっちゃん”?」
真琴「うん。1つ年上のわたしの幼なじみ」
流星に説明する真琴。
真琴「たっちゃん、こんなところでどうしたの?」
太樹「部活終わりに、注文してたスパイクを取りにきて。真琴は?またいつものメンバーでカラオケ?」
真琴「そうそう。でも今日は、有島くんとの親睦会だったんだ」
太樹「…有島くん?」
流星に顔を向ける太樹。
流星はペコリとお辞儀をする。
流星「有島流星です。今日、転校してきたばかりで」
太樹「あ〜、キミが」
真琴「たっちゃん、有島くんのこと知ってるの?」
太樹「うん、うちのクラスの女子が噂してたから。2年にイケメンがきたって」
真琴「そうなんだ!うちの学年でもすでに人気なんだよ」
仲よさそうに話す真琴と太樹。
それを寂しそうな表情で眺める流星。
太樹「真琴も今から帰るとこ?それなら、30分のバスに乗るか」
真琴「そうだね」
太樹「えっと、有島くんだっけ?キミもそこからバス?」
流星「いえ、俺はあっち方面で…」
太樹「そっか。オレたちはあと10分後のバスに乗るから。キミも気をつけて」
なにも知らない太樹は、流星に向かって爽やかな笑顔を見せて手を上げる。
なにかを言いたそうな流星だったが、ぐっと言葉を飲み込む。
流星「はい。俺はここで失礼します」
ペコッと太樹に向かって頭を下げる流星。
顔を上げる直前、少し切なそうな表情で真琴を見つめる。
去っていく流星を見つめる真琴と太樹。
流星の姿が人混みの中に消えると、駅のバスターミナルに向かって歩き出す。
太樹「それにしても有島くん、すごい髪色だったな」
真琴「うん。でも、街灯で余計に明るく見えただけで、実際はもう少し暗めだよ」
太樹「そうなんだ。真琴と仲いい男友達とはまた少し違った系統っぽいけど、初日で仲よくなったんだ。帰りも2人いっしょになるくらいだもんな」
真琴「…あ、うん。たまたま有島くんもちょっとこっちに用事があったみたいで」
そう話しながら、寂しそうに視線を落とす真琴。
真琴(“初日で仲よくなったんだ”…か)
ついさっきの太樹の言葉を思い出す真琴。
真琴(同じ制服とはいえ、わたしがたっちゃんの知らない男子といっしょにいても…。たっちゃんはなんとも思わないものなのかな…)
少し胸がきゅっと痛む真琴。
太樹「あっ、そうだ!真琴にこれやるよ。スパイク買ったついでにおまけでもらって。昔よく集めてたよな」
そう言って太樹がエナメルバッグから取り出したのは、男の子用のちょっとしたおまけのおもちゃがついたビスケット。
真琴「わあ、懐かしい。ありがとう、たっちゃん」
笑ってみせる真琴。
真琴(そうだよね。たっちゃんにとって、わたしは弟。弟のわたしが知らない男子といっしょにいてたって、なにも思わないよね)
太樹からもらったビスケットをそっとバッグにしまう真琴。
そのとき、ふと流星の言葉が頭の中で再生される。
流星『女の子にかわいいって言ったらだめだった?』
流星『どう考えたって、真琴ちゃんはこの中ではお姫さまみたいな存在なのに』
流星『やっぱり女の子1人で帰らせるのは不安だから』
太樹の隣を歩きながら、流星のことを思い出す真琴。
真琴(有島くんだけがわたしを女の子扱いしてくれる。わたしなんて女の子っぽくないと一番に思っているのはわたし自身なのに…)
流星『俺には見えるよ。どっからどう見ても女の子に』
流星が帰っていったほうを振り返る真琴。
真琴(有島くんって変なの)
流星『なんかかわい』
真琴『へっ!?…か、“かわいい”!?』
流星『だって、てっきり無視されるのかと思ったから反応が初々しくって。隣がやさしそうな女の子でよかったー』
真琴『お…女の子……』
転校生で隣の席にやってきた流星は、真琴のことをすぐに女の子だと気づいた。
『かわいい』とまで言われて、初めてのことに照れながらも困惑する真琴。
(回想終了)
◯回想の続き、学校、教室(朝礼)
流星「で、名前は?」
真琴の顔を覗き込むようにして再び尋ねる流星。
はっとして我に返る真琴。
真琴「お…、大庭…真琴…です」
流星「へ〜、かわいい名前。真琴ちゃんね。よし、覚えた」
ニッと笑ってみせる流星。
それを見て、思わずドキッとする真琴。
真琴(『真琴』という名前も…かわいい?これまで散々、名前も男っぽいと言われ続けてきたのに)
横目でチラリと流星に目をやる真琴。
真琴(それに、初対面でいきなり下の名前呼び。まさかとは思うけど、有島くんって――)
◯前述の続き、学校、教室(次の休み時間)
隣の流星の席には、さっそくクラスメイトの女子たちが集まる。
クラスメイトの女子たち「はじめまして、有島くん♪あたし、エミカっていいます!」
クラスメイトの女子たち「私はミオです♪」
クラスメイトの女子たちは、自己紹介をしながら流星に話しかける。
流星「えっと、こっちがエミカちゃんで、こっちがミオちゃんで――」
クラスメイトの女子たち「すごい!もうみんなの名前覚えてくれたの!?」
流星「うん。俺、女の子の名前覚えるのは得意だから。それに、みんなカワイイからすぐに覚えられる」
それを聞いて、瞬時に流星のほうを振り返る真琴。
クラスメイトの女子たち「キャ〜!カワイイって!」
流星から『カワイイ』と言われたクラスメイトの女子たちはキャッキャッと盛り上がる。
真琴(…やっぱり!女の子慣れもしてるし、有島くんって絶対プレイボーイだ)
女子に囲まれ楽しそうに話す流星を冷めた目で見つめる真琴。
真琴(不覚にも、なんであのときドキッとしてしまったのだろうか…)
流星に『かわいい』と言われ、少し頬を赤くしてしまった自分を思い返す真琴。
真琴(きっと有島くんにとって『かわいい』という言葉は、女の子に対するあいさつみたいなものなのだろうに――)
なぜか少し落ち込んでため息を漏らす真琴。
◯学校、教室(放課後)
終礼が終わり、クラスメイトたちが下校していく。
あずみ「真琴、ごめん。このあと、委員会の集まりあること忘れてた!先に帰ってて」
真琴「うん、わかった」
慌てて教室から出ていくあずみに手を振る真琴。
◯前述の続き、学校、昇降口(放課後)
下駄箱でローファーに履き替える真琴。
そこへ、同じクラスの男友達グループかやってくる。
クラスメイトの男子たち「よう、真琴!」
真琴「おっす」
クラスメイトの男子たち「もしかして、今から帰るとこ?」
真琴「そうだけど、なんで?」
クラスメイトの男子たち「それなら、今からカラオケ行こーぜ」
いつものノリで、仲よさげに真琴の肩を組んでくる男友達。
真琴「え〜、今日はパス。明日の英語の宿題しないとだし」
クラスメイトの男子たち「真面目かっ。そんなの、寝る前でいいじゃん」
クラスメイトの男子たち「真琴がこないと盛り上がんねぇだろ〜」
真琴「よく言うよ。いつも勝手に盛り上がってるくせに」
困り顔の真琴。
クラスメイトの男子たち「それに、今日はただのカラオケじゃねぇよ」
真琴「え?」
クラスメイトの男子たち「親睦会だよ!有島のな!」
それを聞いて顔を向けると、男友達の陰から流星の姿が見えた。
はっとする真琴。
クラスメイトの男子たち「とにかく!この前、オレとの採点勝負に負けて、なんでも1つ言うこと聞くって約束だっただろ?だから、今からカラオケに行く。はい、決定」
真琴「そんなむちゃくちゃな…」
◯前述の続き、カラオケ店(放課後)
流星がいることに違和感を感じつつも、いつものメンバーでカラオケ店に行く真琴。
流星も入れて男子は4人、女子は真琴のみ。
部屋に通され、流星とは一番離れたところに座る。
それぞれ交代で歌っていき、大盛り上がり。
男子に人気のアーティストの激しめの曲を、マラカスを持った男友達に両方から肩を組まれながら熱唱する真琴。
流星もノリがよく、楽しそうにしている。
途中、ドリンクを入れにグラスを持って席を立つ真琴。
ドリンクバーのところで、オレンジジュースのボタンを押す。
流星「真琴ちゃん」
名前を呼ばれて振り返る真琴。
後ろに立っていたのは流星。
真琴「有島くんも飲み物入れにきたの?」
流星「うん」
流星は真琴の隣にコップを置くと、メロンソーダのボタンを押す。
流星「みんなでカラオケって、いつもあんな感じ?」
真琴「まあ、そうだね。初めこそ順番に歌うけど、テンション上がってきたらみんなでいっしょに歌ったり――」
流星「違う、違う。そういうことじゃなくて」
真琴「え?」
キョトンと首をかしげる真琴。
流星「仲いいのはわかるんだけど、フツーに焼く」
真琴「…焼く?」
流星「どう考えたって、真琴ちゃんはこの中ではお姫さまみたいな存在なのに、気軽にハイタッチしたり肩組んだりして」
それを聞いて、目を丸くする真琴。
真琴(お…、“お姫さま”!?…わたしが!?)
恥ずかしさで顔を赤くする真琴。
真琴「な、なに言ってるの、有島くん…!そんなわけないじゃん!わたしなんて、男友達としか見られてないよ」
流星「そうかなぁ。俺ならもし真琴ちゃんと肩組むってなったら、絶対ドキドキするけど」
真琴にとっては衝撃的な流星の言葉の数々にその場で固まる真琴。
真琴(…ド、ドキドキ?わたしに…?)
恥ずかしくなって顔を赤くする真琴。
しかし、ここではっとする。
真琴(はっ…!そうだった…!有島くんはプレイボーイ。きっとわたしをからかっているに違いない)
オレンジジュースの入ったグラスを持って、瞬時に流星と距離を取る真琴。
真琴「も…も〜!有島くん、冗談やめてよ〜!…そ、それじゃあ、先に部屋戻ってるねっ」
冷や汗をダラダラと流し、慌てて部屋に戻る真琴。
その後ろ姿を少し微笑みながら見つめる流星。
流星「冗談…か。冗談じゃないって言ったら、どんな反応見せてくれたんだろ」
やさしく微笑む流星。
そのあとも、時間までカラオケを楽しむ。
――3時間後。
クラスメイトの男子たち「は〜、歌った歌った〜!」
カラオケ店から出てくる真琴たち。
クラスメイトの男子たち「いつも思うけど、3時間パックなんてあっという間だよな〜」
クラスメイトの男子たち「だな〜。ってか、有島ってめちゃくちゃノリいいじゃん!」
クラスメイトの男子たち「それな!しかも、歌もうめーし!」
流星「サンキュ。俺も転校初日から楽しかった」
顔をくしゃっとして笑ってみせる流星。
クラスメイトの男子たち「じゃあ、そろそろ帰るか」
真琴「だね。またね」
クラスメイトの男子たち「おう、また明日〜!」
カラオケ店の前で解散して、散り散りになって帰っていく。
◯前述の続き、繁華街、帰り道(夜)
家に帰るため、繁華街を1人で歩く真琴。
そのとき、後ろから足音がする。
流星「真琴ちゃん、歩くの速いね」
真琴「…有島くん!?」
後ろからやってきた流星に驚く真琴。
真琴「どうしたの?有島くんも家こっちだったの?」
流星「ううん。むしろ真逆」
真琴「は?へ?…じゃあ、なんで?」
流星「もう暗いでしょ。1人じゃ危ないから」
その言葉にぽかんとする真琴。
真琴「でも、すぐそこの駅のターミナルからバスに乗るだけだけど…」
流星「だったら、そこまで送ってく」
突然の展開に少し戸惑う真琴。
真琴「…もしかして、わたしのこと心配してくれてる?」
流星「当たり前じゃん。真琴ちゃんになにかあったらどうすんの」
真琴「でももしなにかあったとしても、わたし柔道黒帯だよ?」
流星「え…、黒帯?」
真琴「うん。だから、たぶんそのへんの男子よりは強い自信あるけど」
ケロッとした表情の真琴に、思わず目が点になる流星。
流星「そ、そうだったとしても…!やっぱり女の子1人で帰らせるのは不安だから」
真琴「どうかな〜。そもそも、わたしなんて女の子に見えないでしょ?どっからどう見ても男子――」
流星「俺には見えるよ。どっからどう見ても女の子に」
想像もしていなかった言葉に思わず戸惑いながらドキッとする真琴。
太樹「真琴?」
そんな2人のところへ、制服姿でサッカー部のエナメルバッグを肩からかけた太樹がやってくる。
真琴「あっ、たっちゃん!」
流星「…“たっちゃん”?」
真琴「うん。1つ年上のわたしの幼なじみ」
流星に説明する真琴。
真琴「たっちゃん、こんなところでどうしたの?」
太樹「部活終わりに、注文してたスパイクを取りにきて。真琴は?またいつものメンバーでカラオケ?」
真琴「そうそう。でも今日は、有島くんとの親睦会だったんだ」
太樹「…有島くん?」
流星に顔を向ける太樹。
流星はペコリとお辞儀をする。
流星「有島流星です。今日、転校してきたばかりで」
太樹「あ〜、キミが」
真琴「たっちゃん、有島くんのこと知ってるの?」
太樹「うん、うちのクラスの女子が噂してたから。2年にイケメンがきたって」
真琴「そうなんだ!うちの学年でもすでに人気なんだよ」
仲よさそうに話す真琴と太樹。
それを寂しそうな表情で眺める流星。
太樹「真琴も今から帰るとこ?それなら、30分のバスに乗るか」
真琴「そうだね」
太樹「えっと、有島くんだっけ?キミもそこからバス?」
流星「いえ、俺はあっち方面で…」
太樹「そっか。オレたちはあと10分後のバスに乗るから。キミも気をつけて」
なにも知らない太樹は、流星に向かって爽やかな笑顔を見せて手を上げる。
なにかを言いたそうな流星だったが、ぐっと言葉を飲み込む。
流星「はい。俺はここで失礼します」
ペコッと太樹に向かって頭を下げる流星。
顔を上げる直前、少し切なそうな表情で真琴を見つめる。
去っていく流星を見つめる真琴と太樹。
流星の姿が人混みの中に消えると、駅のバスターミナルに向かって歩き出す。
太樹「それにしても有島くん、すごい髪色だったな」
真琴「うん。でも、街灯で余計に明るく見えただけで、実際はもう少し暗めだよ」
太樹「そうなんだ。真琴と仲いい男友達とはまた少し違った系統っぽいけど、初日で仲よくなったんだ。帰りも2人いっしょになるくらいだもんな」
真琴「…あ、うん。たまたま有島くんもちょっとこっちに用事があったみたいで」
そう話しながら、寂しそうに視線を落とす真琴。
真琴(“初日で仲よくなったんだ”…か)
ついさっきの太樹の言葉を思い出す真琴。
真琴(同じ制服とはいえ、わたしがたっちゃんの知らない男子といっしょにいても…。たっちゃんはなんとも思わないものなのかな…)
少し胸がきゅっと痛む真琴。
太樹「あっ、そうだ!真琴にこれやるよ。スパイク買ったついでにおまけでもらって。昔よく集めてたよな」
そう言って太樹がエナメルバッグから取り出したのは、男の子用のちょっとしたおまけのおもちゃがついたビスケット。
真琴「わあ、懐かしい。ありがとう、たっちゃん」
笑ってみせる真琴。
真琴(そうだよね。たっちゃんにとって、わたしは弟。弟のわたしが知らない男子といっしょにいてたって、なにも思わないよね)
太樹からもらったビスケットをそっとバッグにしまう真琴。
そのとき、ふと流星の言葉が頭の中で再生される。
流星『女の子にかわいいって言ったらだめだった?』
流星『どう考えたって、真琴ちゃんはこの中ではお姫さまみたいな存在なのに』
流星『やっぱり女の子1人で帰らせるのは不安だから』
太樹の隣を歩きながら、流星のことを思い出す真琴。
真琴(有島くんだけがわたしを女の子扱いしてくれる。わたしなんて女の子っぽくないと一番に思っているのはわたし自身なのに…)
流星『俺には見えるよ。どっからどう見ても女の子に』
流星が帰っていったほうを振り返る真琴。
真琴(有島くんって変なの)