《マンガシナリオ》キミだけに、この溺愛を捧ぐ
第4話
◯第3話の続き、学校、保健室(昼休み)


キスをされそうな至近距離で、真琴の上に覆いかぶさる流星。

どちらも戸惑いつつ顔を赤くする。

そのとき、ガラッと保健室のドアが開く音がする。

驚いた2人は同時に肩をビクッとさせる。


保健室の先生「あら?だれかいるの?」


声が聞こえて、慌てて離れる流星と真琴。


真琴「あ、あの、…先生!」


カーテンから顔を覗かせる真琴。


保健室の先生「ああ、大庭さん。どうしたの?」

真琴「えっと、制服が濡れちゃったので着替えを貸してもらいにきたんです。…有島くんといっしょにきて」

保健室の先生「有島くん?」


流星もカーテンの陰から現れ、保健室の先生にペコリと頭を下げる。


保健室の先生「そうなのね。有島くんも着替えを?」

流星「俺はただの付き添いです。先生がいなくて勝手に探したんですが、制服のズボンが見当たらなくて…」

保健室の先生「ごめんなさいね、席を外してて。今ちょうど棚の整理をしてたところで、制服のズボンは今だけこっちに置いてたの」


保健室の先生は別の棚から制服のズボンを取り出す。

そして、スカート姿の真琴に目を向ける。


保健室の先生「大庭さん、スカートも似合ってるじゃない」

流星「やっぱり!先生もそう思いますよね!?」

保健室の先生「ええ、とっても」

真琴「ふ…2人してなに言い出すんですか。先生、これ借りますね」


真琴は顔を赤らめながら保健室の先生からズボンを受け取ると、1人でカーテンの中へ入っていった。



◯学校、廊下(昼休み)


ズボンの制服に着替えた真琴は、流星といっしょに教室へと向かう。


真琴「スカートなんて久々にはいたよ。すっごく脚スースーした」

流星「え、私服でもはかないの?」

真琴「はかないね。スキニーパンツとかばっかり」


そのとき、5限始まりのチャイムが鳴る。


真琴「やば…!」

流星「5限なんだっけ?」

真琴「たしか、日本史だったような」

流星「それなら、朝礼のときに自習とか言ってなかったっけ?日本史の先生が急遽昼から帰らないといけないとかで」

真琴「あっ、言われてみればそうだったかも」


顔を見合わせる真琴と流星。

すると、流星がニッと微笑む。


流星「だったらさ、俺に校舎案内してよ」

真琴「え、今?」

流星「うん。だって俺、昨日転校してきたばかりだよ?まだ教室と職員室しか知らないんだけど」

真琴「それだけ知ってたら十分だよ。教室移動のときは、みんなについて行けばいいんだし」

流星「それなら、学校で真琴ちゃんが好きな場所教えて」

真琴「え?わたしの?」


キョトンとする真琴。



◯学校、屋上(5限の時間)


真琴「ここがわたしの好きな場所…かなっ」


屋上にやってきた真琴と流星。


流星「お〜、見晴らしいいね!」


坂の上にある学校の屋上からは、下にある街を見渡すことができる。


真琴「今の時期はまだ暑いから、最近はあんまりきてなかったけどね。でも、今日は風もあって気持ちいい」

流星「そうだな」

真琴「あそこに新幹線が通ってるでしょ?運がよかったらここからドクターイエローが見えたりもするよ」

流星「マジか!ってか真琴ちゃん、ドクターイエロー知ってるんだ」

真琴「まあね。小さいときは、兄貴たちが遊び相手だったから。車や電車の知識はあるほうだと思うよ」


そう言って笑ってみせる真琴。


真琴「有島くん、そろそろ戻ろっか」

流星「え、なんで」

真琴「なんでって…」

流星「せっかくなんだから、ドクターイエロー見たいじゃん」

真琴「見たいっていっても、いつでも見られるわけじゃないし」

流星「だったら、この自習時間の間だけ粘ってみる。俺1人にされたら教室までたどり着けるか不安だから、真琴ちゃんもいっしょに。ね?」


いたずらっぽく笑う流星。

それを見て、呆れながらため息をつく真琴。


真琴「しょうがないなぁ」


軽く笑みをこぼす真琴。

2人は校舎の影に座って、街を見渡す。


流星「ねぇ、真琴ちゃん。聞いてもいい?」

真琴「ん?なに?」

流星「どうして、スカートいやなの?フツーに似合ってたよ」

真琴「…ああ。絶対にいやってわけではないんだけど、もともとがズボンだから」

流星「入学したときからその格好?」

真琴「うん。うち、兄貴が3人もいるからわたしも男の子っぽく育てられて。昔から髪形や着る服も男の子っぽくて、だからそのまま高校の制服も兄貴のお下がりのズボンって感じで決まって」


ハハハと笑う真琴。

そんな真琴を眉尻を下げて切なそうな表情で見つめる流星。


流星「でも本当は、スカートがいいなって思ってるんじゃないの?」

真琴「…え?」

流星「さっきスカートはいてるときの真琴ちゃん、一瞬だけうれしそうな顔してたから。本当はそうなのかなって」

真琴「で、でも、普段ズボンのわたしがスカートなんて変でしょ。見た目もこんなだし」


乾いた笑い声を漏らす真琴。


流星「人からどう思われるとかじゃなくて、真琴ちゃんはどうしたいの?」


笑ってごまかそうとする真琴に流星が真剣なまなざしで見つめる。

見たこともない真剣なまなざしに少し驚く真琴。

そして、つばをごくりと呑む。


真琴「本当は…。…普通の女の子みたいに、わたしもスカートがいい。それに、メイクだってしたいしかわいくおしゃれもしたい」


きゅっと唇を噛みしめる真琴。


真琴「正直、女子から告白されるのはなんか疲れるし、かといってわたしを男としか見ていない男子と仲よくして女子から嫉妬されるのも疲れる。その都度その都度で、わたしを男として見たり女として見たり、もうなんなのって」


真琴はずっと溜まっていた愚痴が溢れ出す。

本当は女の子っぽくしたくても、過去に『変』と言われたのがトラウマで踏み出せないでいることや、周りは自分は女の子っぽいものには興味がないと勘違いしているという話も流星に打ち明ける。


真琴「男子から女として見られなくて、一番へこんでるのはわたしだっつーの。わたしだって男子に力負けしたり、男子の服借りたときに『ブカブカだ〜』なんて言ってみたいよ。ドラマみたいなお姫さま抱っこだって、憧れるに決まってるじゃんっ」


と言って、我に返ってはっとする真琴。

隣を見ると、ニタッとして笑う流星の顔。


流星「力負けしたり、『ブカブカだ〜』って言ったり、お姫さま抱っこされたりしてみたいんだ」

真琴「…い、いや。今のは…」


本音を話しすぎて、顔を真っ赤にしてうつむく真琴。

そんな真琴を見て、やさしく微笑む流星。


流星「そんな些細な憧れ、かわいすぎるでしょ」

真琴「…もう、からかわないで」

流星「意外。さっきの女子に囲まれたときみたいに、真琴ちゃんっていつでも毅然な態度で、自分を貫いてる人だと思ったから」

真琴「買いかぶりすぎだよ。男にしか見られない…ずっとこのコンプレックスが付きまとってるから」


重いため息をつく真琴。


真琴「好きな人からすらも女として見てもらえない…。こんな自分なんていやに決まってるじゃん」


真琴の弱音を聞いて、チクッと胸が痛む流星。


流星「真琴ちゃんの好きな人って…、もしかして昨日の丹羽先輩…?」


流星の言葉に、ドキッとして目を見開く真琴。


流星「その様子だと、図星っぽいね」


真琴は頬を赤らめる。


真琴「…どうしてわかったの」

流星「昨日の丹羽先輩に対する真琴ちゃんの反応見てたらわかるよ」

真琴「そっか…。たっちゃんも、有島くんみたいにわたしの気持ちに少しでも気づいてくれたら、わたしがこんなにずっと悩むこともないんだけどね」


眉尻を下げ、切なそうに笑ってみせる真琴。

頭の後ろで手を組んで壁にもたれる流星。


流星「俺は“特別”だから、すぐに気づいただけだよ」

真琴「…“特別”?」


キョトンして首をかしげる真琴。


真琴「ああ、プレイボーイだからかっ」

流星「ちょっ…、真琴ちゃん…?」

真琴「だって、実際にそうでしょ?だから、女子の気持ちにも敏感なんだよね?」


真琴にそう言われ、困ったようにハハハと笑う流星。


流星「気になる人の表情くらい、少し違ったらすぐにわかるに決まってるじゃん」


小声でつぶやく流星。


真琴「ん?有島くん、今なにか言った?」

流星「ううん、なんにも。でもさ、真琴ちゃん、一度スカートにしてみなよ。めちゃくちゃ似合ってたから」

真琴「え〜…、まあ…機会があれば…ねっ。……あっ!ドクターイエロー!!」


そう叫んで、真琴は遠くのほうを指さす。

指の先には、黄色い車両が走っていくのが見えた。


流星「おお!マジかっけー!」

真琴「いいことあるかもね」

流星「だな」


顔を見合わせて笑う2人。

その後、真琴はプールサイドで言い合いになった3人から謝られ、無事に解決した。

真琴は、屋上での流星の言葉を思い出す。


流星『でもさ、真琴ちゃん、一度スカートにしてみなよ。めちゃくちゃ似合ってたから』


真琴(…スカートが似合うなんて初めて言われた。それに、不思議と有島くんには打ち明けられていた。なんでかわからないけど、この人なら笑わない。そんな気がしたんだ)



◯学校、教室(朝)


それから2ヶ月後。

今日は文化祭。

真琴のクラスの催し物は『執事・メイドカフェ』。

執事とメイドに扮した生徒が教室でカフェを開いている。


クラスメイトの女子たち「えー!有島くん、すっごく似合ってる!」

クラスメイトの女子たち「背が高いから尚更!」


執事の格好をした流星に女子たちが集まる。

そこへ、他から「キャー!」という女子の歓声が聞こえる。

目を向ける流星。


クラスメイトの女子たち「やばい!かっこよすぎるよ!」

クラスメイトの女子たち「有島くんといい勝負なんじゃない!?ツートップは真琴ちゃんと有島くんだねっ」


キャーキャー騒がれる中にいたのは執事服姿の真琴。

真琴の執事の格好も似合っていて好評だった。


流星「へ〜。真琴ちゃん、執事にしたんだ」

真琴「まあね」

流星「一応、“似合ってる”…って言ったほうがいいのかな」

真琴「とりあえず、“ありがとう”って言っておく」


本当は女の子扱いされたいという真琴の本音を知っている流星は、言葉を選びながら真琴に声をかける。

その流星の気持ちがわかるため、真琴は微笑んでみせる。

そのとき、流星が真琴の肩をトントンと軽く叩く。


流星「でも、真琴ちゃんがメイド服着たとしても絶対クラスで1番だと思うけど」


真琴にだけ聞こえるように、真琴の耳元でそっとささやく流星。


真琴「…なっ」


それを聞いて、耳まで真っ赤になる真琴。

そのあと、文化祭は盛り上がり、真琴のクラスのカフェは真琴と流星の執事コスを見たさに訪れた生徒たちで大盛況だった。


あずみ「ちょっとちょっと!真琴!」


そのとき、休憩中だったあずみが大慌てで真琴のところへやってくる。


真琴「どうしたの?あずみ」

あずみ「大変なんだよ…!ちょっと耳貸して!」


真琴が屈むと、あずみが耳打ちする。

それを聞いた真琴は目を見開く。


真琴「…えっ!?たっちゃんが!?」



◯前述の続き、学校、体育館(昼)


体育館には多くの生徒たちが集まっている。

なにやらステージで、男女が立ってなにかをしている。


あずみ「真琴!こっち空いてるよ…!」

真琴「…ありがとう!」


あずみと真琴は観客で埋め尽くされたステージ前の空いているスペースに入り込む。

今、体育館のステージで行われているのは『告白大会』。

みんなの前で好きな人に告白するという、この学校の文化祭の恒例の催しだ。

それに、太樹が参加すると聞きつけたあずみが慌てて真琴をこの場に連れてきた。


あずみ「安心して、真琴。太樹先輩は、告白するほうじゃなくてされるほうで呼び出されてるみたいだから」

真琴「そ、…そっか」


つぶやきながら、ごくりとつばを呑む真琴。


真琴(告白されるほうっていったって、もしたっちゃんがその告白にオッケーで答えたら…)


悪い予感がして青ざめる真琴。

告白大会のイベントは順番に進んでいき、ついに太樹がステージに現れる。

太樹に告白する相手は、1つ上(太樹と同い年)の美人の先輩だった。

祈るように手を握りしめ、太樹が告白されるのを見守る真琴。

手汗をかき、額からは汗が流れる。


太樹「ごめんなさい」


ドキドキしていた真琴だったが、太樹はキッパリと断る。

それを聞いて、脱力してほっとする真琴。

太樹の告白の順番が終わり、体育館から出ていこうとする真琴とあずみ。


太樹「真琴!」


そのとき、後ろから太樹に呼び止められる真琴。

くるりと振り返る。


太樹「真琴、こんなところにいたんだ!」

真琴「…う、うん」

太樹「クラスの催し物は落ち着いた?よかったら、今からいっしょに文化祭まわらない?」

真琴「えっ…」


予想外の太樹からのお誘いに、一瞬にして表情が明るくなった真琴。


あずみ「せっかくなんだし、行っておいでよ♪」

真琴「えっ、でも…」

あずみ「それじゃあ、太樹先輩。真琴のこと、よろしくお願いします!」


そう言ってあずみはその場に2人を残して行ってしまった。

そのあと、真琴は太樹と文化祭をまわり楽しい時間を過ごす。



◯前述の続き、学校、グラウンド(夕方)


肌寒いこの季節、夕方とはいえ太陽は沈み、空は薄暗い。

グラウンドのど真ん中には、キャンプファイヤーの炎か揺らめいている。

それを遠くのほうから眺める真琴と太樹。

この学校の文化祭で、日が沈んでから灯されるキャンプファイヤー。

このキャンプファイヤーが燃えている間に付き合うことができたカップルは、ずっと結ばれるという噂がある。


真琴(この場でもしたっちゃんと付き合うことができれば、ずっと結ばれる――…)


キャンプファイヤーの炎をじっと見つめる真琴。


真琴(告白大会のとき、たっちゃんがだれかの彼氏になるかもしれないって思ったら…、すごくこわかった)


唇をきゅっと噛む真琴。


真琴(たっちゃんが女の子から人気があることは十分にわかってる。今回は振ったけど、もしかしたら次は――)


そんなことを考えたら、一気に不安に駆り立てられる真琴。


真琴(たっちゃんがだれかのものになるのは…絶対にいやだ。…だったら)


真琴はゆっくりと顔を上げる。


あずみ『何度も言ってるけど、そんなに好きならさっさと告っちゃえばいいのに』


前のあずみの言葉を思い出す。

覚悟を決める真琴。


真琴「ねぇ、たっちゃん」


太樹を見上げる真琴。


太樹「ん?なんだ?」


真琴に顔を向ける太樹。

そんな太樹に、真剣な表情でまなざしを送る真琴。


真琴「わたし…、ずっと前からたっちゃんのことが好きだったんだ。だから、わたしと付き合ってください」


頬を赤らめる真琴。

太樹は目を見開く。
< 4 / 5 >

この作品をシェア

pagetop