甘苦とコンプレックス・ラブ
#13 素直になりたい
○駅から凛太郎のアパートまでの夜道
まなと凛太郎、並んでゆっくり歩いている。
まな、泣き腫らした目を気にして何度も拭っている。凛太郎、悟に言われたことを思い出している。
凛太郎(大事なの? いらないの?……そんなの)
凛太郎(大事に決まってる。子どもの頃からずっと好きで、だけど伝えられなくて)
凛太郎(いい加減諦めようと思ってた矢先に告白されて、付き合えることになった)
凛太郎(絶対に離したくない。誰よりも甘やかして、可愛がって、大切にしたい。本当は、ずっとそう思ってる)
まな「あのね……手、繋いでもいい?」
凛太郎「いちいち聞くなよ、そんなこと」
凛太郎、まなの手をぎゅっと握る。まな、嬉しそうに笑う。
凛太郎(思っていることを、ちゃんと伝えないといけない)
凛太郎(口下手だから、不器用だから──そんな理由で逃げていたら、俺はきっと、まなをまた傷つけてしまう)
○凛太郎の部屋
まな「荷物、持ってくれてありがと。重かったよね」
凛太郎「いや、そんなに」
まな(凛太郎の部屋に来るのは三度目。しかも、今日はお泊まり)
まな(朝までずっと一緒にいられる)
沈黙が続く。まな、どうしていいかわからずそわそわする。
まな「あの、暑いから窓開けてもいい?」
凛太郎「ああ」
まな、ベッドに上がって窓を全開にする。下りようと振り向くと、すぐ後ろに凛太郎がいる。
凛太郎「まな、好きだ」
凛太郎、まなを背後から抱きしめる。
凛太郎「本当にごめん。あんなところ見せて、かわせなくて……しかも、悟に」
まな、悟にキスされたことを思い出す。
まな(思い出したくないし、なかったことにしたい。留依さんのことも、悟くんのことも)
凛太郎「キスしたい。悟にされたの……俺が、なかったことにしてやるから」
凛太郎、まなの顎を持ち上げて触れるだけのキスをする。
まな「凛太郎だって、留依さんにされてたでしょ」
凛太郎「思い出したくない」
まな(悟くんのキスをなかったことにするのなら、わたしだって……)
まな、唇を離した凛太郎の腕を掴んで、今度は自分からキスをする。
まな「あんなに可愛い人に好きって言われて、キスされて……それなのに、嫌なの?」
凛太郎「そういう問題じゃない。キスなんて、好きな女以外としたいと思うかよ」
まな「じゃあ、わたしなら、いいの? あの人に比べたら、全然可愛くないけど」
凛太郎「だから、そういう問題じゃないだろ。なにを言ってんだよ、おまえは」
凛太郎、まなを抱きしめる。
凛太郎「おまえ以外の女を、可愛いなんて思わねえよ」
まな、予想外の発言に固まる。凛太郎の顔を見上げる。
まな「凛太郎、今の、もう一回言って」
凛太郎「はあ? なんでだよ。言わねえよ」
まな「お願い、もう一回だけ」
凛太郎「……そんなの、口に出さなくたって死ぬほど言ってんだよ」
まな「……え?」
凛太郎「だいたい、おまえの言う可愛いってなんだよ。化粧だの服だの、そんなに他の男の気を惹きたいのかよ」
まな「ちょっと、それ、どういう意味よ」
まな(わたしが今まで、どれだけ努力してきたか知らないくせに)
まな(この気持ちを自覚した日からずっと、一瞬でも可愛いって思ってほしくて)
凛太郎「……悪い。頼むから、もう泣くな」
凛太郎、まなを強く抱きしめる。
まな「だって、嫌なことばかり言うから」
凛太郎「俺が言いたかったのは、その」
凛太郎「おまえを可愛いって思ってるのが俺だけじゃ不満なのかよ、ってことで」
凛太郎「ああもう、どうしてこんなこと言わせるんだよ」
凛太郎、まなの顔を両手で挟んでじっと見つめる。
凛太郎「だいたいおまえは、自分のことを知らなさすぎだし、危なっかしいし、派手だし、化粧濃いし」
まな「ちょっと、最後のはただの悪口じゃない?」
凛太郎「それでも、こんなに好きなんだから──しょうがないだろ」
凛太郎、真っ赤な顔でまなから視線を逸らす。
まな「それ、ほんと?」
凛太郎「嘘でこんなこと言えるかよ」
まな「わたしが可愛いとムカつくの? 他の男の子に見られるから?」
凛太郎「おまえは無駄に目立つんだよ、無駄に」
まな「無駄に、ってことないでしょ。可愛いのは悪いことじゃないんだから」
凛太郎「いいから、少し黙れ」
凛太郎、まなにキスする。まなが少し声を漏らすと、キスが深くなる。
まな「ま、待って……汗かいてるし、メイクもぐちゃぐちゃだし」
凛太郎「黙れって言ってるだろ」
キスが続く。
凛太郎「マジで腹立つ。悟にキスされたとか、触られたとか」
まな、凛太郎に肩を強く押されてベッドの上に仰向けに倒れる。凛太郎が覆い被さってくる。
まな「怒って、る?」
凛太郎「怒ってる。だから、今日は朝まで」
まな(朝まで、って)
まな(ていうか、これ以上近づかれたら本当にマズいんだけど。メイクひどいことになってるし、とりあえずシャワー借りたい)
まな(ん? シャワー?)
まな(待って! シャワーなんかしちゃったら)
まな、突然身体を起こして凛太郎に思い切り頭突きしてしまう。凛太郎、額を抑えながら呻いている。
凛太郎「いって……おまえ、石頭すぎ」
まな「ご、ごめん。シャワー借りたいけど借りちゃったらやばいって気づいて」
凛太郎「日本語になってねえよ」
まな「だから、シャワーしたら、その、すっぴんに」
凛太郎「はあ?」
まな「すっぴんになっちゃうの。フルメイクで寝るなんて肌に悪すぎだし」
凛太郎も起き上がる。盛大なため息をついて、まなを見る。
凛太郎「どうでもいいだろ。おまえのすっぴんなんて、子どもの頃から見慣れてる」
まな「そういう問題じゃ」
凛太郎「だいたい、俺は、その……すっぴんのほうがいいと思ってんだよ」
まな「……ほん、と?」
凛太郎「いつも言ってんだろ。化粧濃すぎなんだって、おまえは」
凛太郎(つーか俺は、おまえの素顔がめちゃくちゃ好きなんだよ)
凛太郎(童顔だから、子どもの頃から全然変わってねえんだろうな)
凛太郎、まなを見つめながらふっと笑う。
まな「あっ、笑った。やっぱり、やばいって思ってるんでしょ」
凛太郎「被害妄想かよ」
まな「ひどい。帰る」
凛太郎「帰さねえって」
凛太郎、まなを背後から抱きしめる。
凛太郎「告白される前から、ずっと好きだった」
まな「え……?」
凛太郎「だから付き合おうって言った。どうしても諦められなかったから」
凛太郎「すっぴん、見せろよ。彼氏の特権だろ」
まな、真っ赤な顔で黙って頷く。
凛太郎「おまえが可愛くない瞬間なんてないんだよ。だから、俺には全部」
凛太郎「全部、見せてほしい」
まな「……うん」
まな、凛太郎の手をぎゅっと握る。凛太郎、まなの手を握り返す。
まなと凛太郎、並んでゆっくり歩いている。
まな、泣き腫らした目を気にして何度も拭っている。凛太郎、悟に言われたことを思い出している。
凛太郎(大事なの? いらないの?……そんなの)
凛太郎(大事に決まってる。子どもの頃からずっと好きで、だけど伝えられなくて)
凛太郎(いい加減諦めようと思ってた矢先に告白されて、付き合えることになった)
凛太郎(絶対に離したくない。誰よりも甘やかして、可愛がって、大切にしたい。本当は、ずっとそう思ってる)
まな「あのね……手、繋いでもいい?」
凛太郎「いちいち聞くなよ、そんなこと」
凛太郎、まなの手をぎゅっと握る。まな、嬉しそうに笑う。
凛太郎(思っていることを、ちゃんと伝えないといけない)
凛太郎(口下手だから、不器用だから──そんな理由で逃げていたら、俺はきっと、まなをまた傷つけてしまう)
○凛太郎の部屋
まな「荷物、持ってくれてありがと。重かったよね」
凛太郎「いや、そんなに」
まな(凛太郎の部屋に来るのは三度目。しかも、今日はお泊まり)
まな(朝までずっと一緒にいられる)
沈黙が続く。まな、どうしていいかわからずそわそわする。
まな「あの、暑いから窓開けてもいい?」
凛太郎「ああ」
まな、ベッドに上がって窓を全開にする。下りようと振り向くと、すぐ後ろに凛太郎がいる。
凛太郎「まな、好きだ」
凛太郎、まなを背後から抱きしめる。
凛太郎「本当にごめん。あんなところ見せて、かわせなくて……しかも、悟に」
まな、悟にキスされたことを思い出す。
まな(思い出したくないし、なかったことにしたい。留依さんのことも、悟くんのことも)
凛太郎「キスしたい。悟にされたの……俺が、なかったことにしてやるから」
凛太郎、まなの顎を持ち上げて触れるだけのキスをする。
まな「凛太郎だって、留依さんにされてたでしょ」
凛太郎「思い出したくない」
まな(悟くんのキスをなかったことにするのなら、わたしだって……)
まな、唇を離した凛太郎の腕を掴んで、今度は自分からキスをする。
まな「あんなに可愛い人に好きって言われて、キスされて……それなのに、嫌なの?」
凛太郎「そういう問題じゃない。キスなんて、好きな女以外としたいと思うかよ」
まな「じゃあ、わたしなら、いいの? あの人に比べたら、全然可愛くないけど」
凛太郎「だから、そういう問題じゃないだろ。なにを言ってんだよ、おまえは」
凛太郎、まなを抱きしめる。
凛太郎「おまえ以外の女を、可愛いなんて思わねえよ」
まな、予想外の発言に固まる。凛太郎の顔を見上げる。
まな「凛太郎、今の、もう一回言って」
凛太郎「はあ? なんでだよ。言わねえよ」
まな「お願い、もう一回だけ」
凛太郎「……そんなの、口に出さなくたって死ぬほど言ってんだよ」
まな「……え?」
凛太郎「だいたい、おまえの言う可愛いってなんだよ。化粧だの服だの、そんなに他の男の気を惹きたいのかよ」
まな「ちょっと、それ、どういう意味よ」
まな(わたしが今まで、どれだけ努力してきたか知らないくせに)
まな(この気持ちを自覚した日からずっと、一瞬でも可愛いって思ってほしくて)
凛太郎「……悪い。頼むから、もう泣くな」
凛太郎、まなを強く抱きしめる。
まな「だって、嫌なことばかり言うから」
凛太郎「俺が言いたかったのは、その」
凛太郎「おまえを可愛いって思ってるのが俺だけじゃ不満なのかよ、ってことで」
凛太郎「ああもう、どうしてこんなこと言わせるんだよ」
凛太郎、まなの顔を両手で挟んでじっと見つめる。
凛太郎「だいたいおまえは、自分のことを知らなさすぎだし、危なっかしいし、派手だし、化粧濃いし」
まな「ちょっと、最後のはただの悪口じゃない?」
凛太郎「それでも、こんなに好きなんだから──しょうがないだろ」
凛太郎、真っ赤な顔でまなから視線を逸らす。
まな「それ、ほんと?」
凛太郎「嘘でこんなこと言えるかよ」
まな「わたしが可愛いとムカつくの? 他の男の子に見られるから?」
凛太郎「おまえは無駄に目立つんだよ、無駄に」
まな「無駄に、ってことないでしょ。可愛いのは悪いことじゃないんだから」
凛太郎「いいから、少し黙れ」
凛太郎、まなにキスする。まなが少し声を漏らすと、キスが深くなる。
まな「ま、待って……汗かいてるし、メイクもぐちゃぐちゃだし」
凛太郎「黙れって言ってるだろ」
キスが続く。
凛太郎「マジで腹立つ。悟にキスされたとか、触られたとか」
まな、凛太郎に肩を強く押されてベッドの上に仰向けに倒れる。凛太郎が覆い被さってくる。
まな「怒って、る?」
凛太郎「怒ってる。だから、今日は朝まで」
まな(朝まで、って)
まな(ていうか、これ以上近づかれたら本当にマズいんだけど。メイクひどいことになってるし、とりあえずシャワー借りたい)
まな(ん? シャワー?)
まな(待って! シャワーなんかしちゃったら)
まな、突然身体を起こして凛太郎に思い切り頭突きしてしまう。凛太郎、額を抑えながら呻いている。
凛太郎「いって……おまえ、石頭すぎ」
まな「ご、ごめん。シャワー借りたいけど借りちゃったらやばいって気づいて」
凛太郎「日本語になってねえよ」
まな「だから、シャワーしたら、その、すっぴんに」
凛太郎「はあ?」
まな「すっぴんになっちゃうの。フルメイクで寝るなんて肌に悪すぎだし」
凛太郎も起き上がる。盛大なため息をついて、まなを見る。
凛太郎「どうでもいいだろ。おまえのすっぴんなんて、子どもの頃から見慣れてる」
まな「そういう問題じゃ」
凛太郎「だいたい、俺は、その……すっぴんのほうがいいと思ってんだよ」
まな「……ほん、と?」
凛太郎「いつも言ってんだろ。化粧濃すぎなんだって、おまえは」
凛太郎(つーか俺は、おまえの素顔がめちゃくちゃ好きなんだよ)
凛太郎(童顔だから、子どもの頃から全然変わってねえんだろうな)
凛太郎、まなを見つめながらふっと笑う。
まな「あっ、笑った。やっぱり、やばいって思ってるんでしょ」
凛太郎「被害妄想かよ」
まな「ひどい。帰る」
凛太郎「帰さねえって」
凛太郎、まなを背後から抱きしめる。
凛太郎「告白される前から、ずっと好きだった」
まな「え……?」
凛太郎「だから付き合おうって言った。どうしても諦められなかったから」
凛太郎「すっぴん、見せろよ。彼氏の特権だろ」
まな、真っ赤な顔で黙って頷く。
凛太郎「おまえが可愛くない瞬間なんてないんだよ。だから、俺には全部」
凛太郎「全部、見せてほしい」
まな「……うん」
まな、凛太郎の手をぎゅっと握る。凛太郎、まなの手を握り返す。